新生児に必要な光へのこだわり
照明デザイナー魂に火をつけた相談
去る3月に、照明だけでなく光を受ける空間の素材の選択にまで、とことんこだわりながら進めてきたプロジェクトが完成しました。それは、名古屋第二赤十字病院の新生児科という産まれたばかりの赤ちゃんを専門的に診ているお医者さまからの依頼を受けて始まったプロジェクトでした。
対象となった空間は、NICU(新生児集中治療室)という特別な治療空間で、そこでは照明がとても重要なのだと言うのです。新生児科の部長でもあるその先生はNICUを改築するにあたり、内装の色や光について色々と調べているうちに照明デザイナーという存在に気が付きます。そして、この改築プロジェクトに照明デザイナーに参加してもらおう・・・となったそうなのですが、聞けばその空間のニーズというのは照明デザイナーの職業意識に火をつけるような内容であったのです。
産まれたばかりの赤ちゃんのための部屋
NICU(新生児集中治療室)とは、その名の通り新生児、つまり産まれたての赤ちゃんのための治療室なのですが、そこに入る赤ちゃんというのは未熟児や低出生体重児なのです。
かつては、他の治療室と同様に患者の表情をよく捉えるために部屋を明るくしていたそうですが、本来ならまだお母さんのお腹の中にいる赤ちゃんが患者なので、母体の胎内環境と同じくうす暗い状態のほうが望ましいということになっているのだと説明をうけました。また、その上で昼夜の区別が少しあったほうが良いのだそうです。
しかしながら、この写真のようにただ薄暗い環境では問題があったというのです。交代制で24時間看護が必要な空間ですから、長時間労働するスタッフにとって「暗い」というのは、かなり過酷な環境であります。また、赤ちゃんに面会に来るお母さんやお父さんたちにとっても、産まれたばかりの我が子とうす暗く陰鬱なところで会わなければいけないのも何とか改善できないものか・・・?と先生は考えていらっしゃいました。
そんな相談を受けた私は、何か魂に火が付いたように熱くなるものを感じました。まさにこういう時こそ照明のチカラを発揮するべきだ!と武者震いがしたのを覚えています。
優しく空間を包み込むアンビエントライト
さて、NICUに求められていた照明への要求を改めて整理してみました。
1.赤ちゃんにとっては、低照度環境が必要である。 2.働くスタッフや面会に来られるご両親にとっては、明るい印象であって欲しい。 3.昼夜の明るさの違いを付けること。
1と2は、一見矛盾する要望に思えますが、照明デザインとして実はそんなに難しいことではありません。アンビエントライティングと呼ばれる手法を用いて、白い天井や壁面などを照射し、その反射光が柔らかに空間全体に広がれば、机上面の実照度が低くともとても明るい印象の空間をつくることができるのです。このことを照明コンセプトとして「低照度・明印象環境」と名付けました。
それから、3番の昼夜のシーンを設けることは、照明としては、当たり前のことかもしれません。簡単な調光器にはシーン記憶ができるものがたくさんあるのです・・・ここまでは順調な進捗でした。しかし、これを具現化するに当たっては、数々の問題を乗り越えなければなりませんでした。このブログ上で、それらの苦労話を語ることはしませんが、世の中には照明の持つチカラが求められているプロジェクトがたくさんあるのかもしれません。
そして、そんな仕事に照明のチカラを発揮することが照明のデザインなのではないだろうか? そんな思いを募らせたプロジェクトであったのです。