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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

照明と夜と経済の関係?

更新日:2023年6月1日


祭りは夜に…


照明を使って


先日ニューヨークタイムズの紙面に、面白いニュースを見つけました。タイトルには「2,000 Pigeons Will Put on a Light Show in Brooklyn」とありました。これはブルックリンにあるNavy Yard(海軍工廠)で開催されたアートイベント時に、2000羽以上の伝書鳩の脚に小さなLEDを付けて、夜空に飛ばせるというショーが行われたというものです。何という大胆な発想なのでしょう! いったい鳩はどんな気持ちで飛んで行ったのか? などと心配する反面、その光景はさぞかし壮大であったに違いないと思うのです。光がウェアラブルになった先には、鳩にも装着するという時代になったのか!と感慨深いものさえ覚える記事でした。


ところで、これまで平和のシンボルである鳩が一斉に放たれるシーンは、概ね昼間だったのでしょうが、夜間にイベントを開催しそれに光が伴っている・・・いや、光が際立つから夜間のイベントを行うのか? 今回は、イベントと夜の価値について少しばかり考察してみたいと思います。

 

夜闇と光との関係


公共の場で光を使った人が集まるイベントといえば、お祭りがあります。日本では祭りのクライマックスは夜にあることが圧倒的に多いようです。建築史家の伊藤ていじ氏の著書「灯火の美」は、日本古来の灯火について読み解く私のバイブル的な書籍なのですが、これによると、その昔、かがり火のような裸火は、あかりとりの目的ではなく、お浄めの為に灯されたのだそうです。


それは火を灯すことにより、その空間を浄め、それによって神々に近づくという意味だったのです。その目的を達成し、しかもそれがより象徴的に表現するのは、明るい昼間よりも、光が闇を切り裂く効果や迫力が増す夜のほうが最適であったのでしょう。奈良の二月堂のお水取りがその代表格で、松明をもって清め新たな季節を迎えるのです。身近な神社のお祭りだって、詣でるのは夜になってからなのは、露店で買い物をするのではなく、清めのための火を浴びることに由来するのです。


一方で、現代的なイベントも夜に開催されることが多いのですが、それは、お清めのためではありません。

 

夜の時間は、人をワクワクさせ経済効果がある


シンプルにやはり夜のイベントというのは人をワクワクさせてくれます。夏の暑い季節であれば、夜になれば少しは涼しくなるでしょうし、浴衣姿もより風流に感じられるでしょう! そして、気が付けばお腹が空いてきたりします。夜であれば、少しお酒を飲んでもいいでしょうし、さらに食事も少し奮発して、いろいろなご馳走を食べようとなるでしょう。


たとえば、フランスのリヨンで毎年開催される「Fete des Lumieres(フェット・デ・リュミエール)」は町興しとして成功したナイトライトイベントのひとつです。ヨーロッパの地方都市の多くは、その経済基盤を観光業に期待していることが多いのですが、ここリヨンもそのような都市の典型です。そして、夏のシーズンは観光客でにぎわっているのですが、秋から冬になって観光客が減ると街の収益に大きなダメージを与えてしまいます。そんな財政上の目論見をもってこのイベントは市を挙げて開催されているのです。そして夜のイベントとするところにも大きな意味があります。昼のイベントであれば、せいぜいランチをいただいて日帰りで帰ることになるのでしょうが、夜のイベントならば、来場者はリヨンに滞在し、バーやレストランにも行って、街にお金が集まるというシナリオなのです。

 

技術の後押しが夜を切り開く


こうしたナイトライトイベントの多角化にはLEDの功績もあるでしょう。冒頭にご紹介したような、鳩に協力してもらってのライトショーはLEDのような小型で熱を発しない照明でなければできませんし、街の古い伝統的な建築物に照明を設置するのにも役立っているでしょう。さらに以前の白熱電球をたくさん使うようなイルミネーションだったら、大きな電源車を導入する必要があったところも、LEDならば太陽光パネルで昼間に蓄電したり、小さなバッテリーだけで済んでしまうものもあります。また、開催者側としてはコスト面が抑えられるのも嬉しいところでしょう。こうして、以前より手軽に凝ったライティングで、楽しいイベントを開催できるようになったのですから、みなさんも是非お気に入りのナイトイベントを見つけていただきたいと思います。

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