東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

2020年10月1日4 分

小さなキャビン空間の楽しい照明

スケール感を超える光の使い道

ココチガワルイ…

オフィスでのデスクワークがリモートワークという形に変化してから早半年が過ぎました。以前、こちらでもご報告したように、幸いにも照明デザインの仕事はPCワークがほとんどですから、それが家での仕事に移行したからといっても、大きな影響はありませんでした。

ここからは、とある照明デザイナーの話です。毎日の仕事は家にいてもいつも通り…なはずでしたが、それがどうも調子が悪いというのです。その理由を少し探ってみると、まず家でのワークスペースなのですが、ワークスペースとは名ばかりで、そこは今まで使っていなかった小さな空間で、窓こそあるものの窓の外には遠く山や海が望めるわけではありません。

いやむしろ景色ないいささかつまらない環境であると言わざるを得なかったのでした。そこで、リモートワークを開始してほどなく照明デザイナーとしてその空間の光環境の整備に乗り出したのでした。


空間の使い方に問題があった

sketch by Hiroyasu Shoji

さて、このスケッチはリモートワーク初期状態です。天井にシーリングライトがあるごく普通の部屋です。広さは9平米くらいとあまり広くないものですから机を壁に向けて設置していました。もともとこの部屋に付いていたシーリングライトは時には点け、時には消したりして使っておりました。しかし、ほどなくして、先述の心地悪さに気づき、下の様に机などの配置をアレンジしました。

sketch by Hiroyasu Shoji

まず、机を壁から少し離して、壁側に回り込んで座るような向きに変えました。壁を目の前にするのではなく、壁を背にして座るのです。これはアメリカなんかでよくあるオフィスのスタイルかもしれません。日本人はどうしても壁向けに勉強机を置いて何か作業をしてきたという悪しき習慣のせいか、彼もついついそうしてしまっていたのですが、イヤイヤそうじゃないだろうと座る方向を変えてみたら大いに気分が変わったといいます。小さな空間とは言え眼前に景色が生まれたことは大きな喜びとなりました。そしてここに座っていることが苦ではなくなったのです。

机にはタスクライトではなく、“VC(ビデオカンファレンス)用イケメン照明”(←テレビのスタジオでコメンテーターがテーブルを囲むような配置の時に、それぞれのコメンテーターは少し前方から顔を照らす照明を浴びているのです)を設置しました。仕事はPCワークなので、そもそも手元を照らすようなタスクライトは必要がなくなった一方、クライアントとの会議をPCで行うようになったので、カメラでの見え方を考慮し机の先端のふもとに長い定規状の照明をつけて自分の顔を照らすようにしたのです。

また、空間をとった先にある壁面には景色を作るアンビエント照明を設置しました。こうして壁面を床から上方に光を当てることで、光のグラデーションが生まれます。机に座って見ているのは基本的にPC画面ですが、ふと目をそらした時に奥に変化のある景色が広がる訳です。シーリングライトでは全面が均質に照らされて何の面白みも無かった壁にまるでタヒチの水平線の様な明暗が広がっている…、こうして光の当て方を変えただけで表情が変わる、これが照明の面白いところなのです。


アイデアは無限大にある

ここのところ、自分の本棚から改めて気になった洋書2冊引っ張り出しました。ひとつは世界の移動屋台トラックを紹介した『Around the World in 80 Food Trucks』。自動車内に備えらえたミニマルなキッチンと販売スペースが紹介されており、ものすごく小さな空間でもミニマルなアレンジがほどこされているのを眺めていると、このリモートワーク時代に、自分の部屋をクリエイティブな空間に変えるためのヒントがありそうだと感じました。

そしてもう一冊は『Hit the Road: Vans, Nomads and Roadside Adventu』というもので、色んな車を使ってキャンピングカーにカスタマイズして地球上のあらゆる場所を旅するドキュメンタリーを記録した写真集です。世界各地の大自然に挑む姿が楽しいだけでなく、この本には小さな移動空間に詰められた空間の様々なアイデアが紹介されています。

紹介されている車は、いわゆる既成のキャンピングカーではなく、古いスクールバスやトラック、スポーツカーや軽自動車などが見事にキャビン=居住空間に変身しているのです。ここにも小さな空間を快適にするためにどうやって工夫したのか?が見て取れます。これはある空間の使用用途が変わった場合、また変えたい場合にフレキシブルに対応していく智慧だと考えます。こんな本を見ていると小さワークスペースでも、無限の想像力が満ち溢れる場所へと変貌していくことができる!とワクワクが止まらなくなるのです。

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