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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

コロナ禍からの生き方、働き方の再考


価値に向き合う時


リモートワークに切り替えて


ライトデザインでは新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、4月2日からスタッフ全員を在宅勤務に切り替えました。照明デザイン業務のオフィスワークは幸いスムースにパソコンを介したリモートワークにすぐに切り替えることができました。毎日社内ビデオ会議を設定しているのですが、これによって案外スタッフとのコミュニケーションも円滑にとることができていて、新入社員との直接のコミュニケーションは、従来よりも増しているというメリットさえ感じています。


現在のところ、私たちの仕事は、不自由はあるものの何とか遂行できていますが、医療関係者や休業を余儀なくされた飲食関係者、他にも大きな影響を受けている様々な業種・職種の方々に向けて、微力ながら、自分にできることに取り組み続けたいと思っています。


私はこのブログを2007年から書き始めましたが、その間には東日本大震災を経験しました。大きな災害に直面した時に、「照明」というものと「人生の時間」とを重ねて模索してきたことを思い返します。今回の世界的なコロナ禍の影響は、東日本大震災以上に、私たちの生き方、暮らし方を大きく変えるターニングポイントになるだろうと考えています。


そして、このことは、自分自身がこれからどう在りたいのか、どのようなスタイルで人生を過ごしていきたいのかという価値観の変化を促す出来事のようにも感じます。今回は私の頭の中に渦巻く考えを静かに綴ってみたいと思います。

 

仕事をする場所の価値


毎日がリモートワークになり、これまで仕事へ行くぞ!と気持ちを入れ込む通勤という時間も不要になって、職=住のスタイル、働く場所は、必ずしも都心のオフィスである必要がないという状況になりました。 


こうなって思い起こされるのが、5年前に訪れたオーストリアの照明メーカー「PROLIHT(プロリヒト)」での出来事です。

当時、ブログにも綴っているように、この会社はオーストリアのチロル地方の自然豊かな場所に社屋を構えており、そこを拠点にヨーロッパ全域を相手にビジネスを展開しているのです。


この会社を起業した社長のワルターさんにプロダクトや社屋を案内していただいたのですが、一通りの案内が終わると、彼は私を本社の裏側に案内してゆきました。そこからは森が続いていて、樹木に囲まれた池があって、太陽の光が降り注いでいたのです。彼は時折この場所に何時間もいるというのです。「ここに座っていると色んな知恵が降りてくるんだ、私たちは自然の中から降り注いでくる叡智というものを受け止めて仕事をしてるんだ」 と語ってくれたことが印象的でした。

そこで彼はこう続けます「ショウジ、我々の今最大の問題はmoneyなんだ。私たち人間はmoneyによって動かされているんだ。そのことを理解して、どうやったらそれを超えられるかを考えなくてはいけないんだ。」

「世の中では大切なことは経済、お金、利益を得るということに一生懸命になりすぎていて、何か本質的なものを見失っていくのではないか、経済活動と言っても人がそれをどうエンジョイしていくのかということを、ここで考えているんだ」と語っていたことを思い起こします。

 

プロダクトの価値とウェルビーイング


プロダクトの価値と言う点では、最近知ったデジタルウェルビーイングという言葉も気になりました。リモートワークが可能になったのはITの躍進の賜物で、在宅でもオンラインでワイン会ができたり、楽しいコレボレーションが生まれたりと、いまや世界各国の人と簡単に繋がることが可能になったのは喜ばしいことです。

しかし、その一方で、仕事に余暇にとスマートフォンやPCなどスクリーンに夢中になる時間が増えると身体や心にも悪影響があり、ITの世界ではその依存性を減らすためのデジタルウェルビーイングという考え方が生まれてきているのだそうです。例えば、スマートフォンやアプリがユーザーに"あなたは今週〇時間も見てますよ!先週より〇時間も多いですよ“といったお知らせをする機能がユーザーのより良い人生 (ウェルビーイング))のためのデザインなのだそうです。

 

人間が健全に生きるための豊かさ


ところで2007年に出版した拙著『デリシャス・ライティング』と、また同年にスタートしたブログ『光のソムリエ』では、照明は豊かな人生の時間を生み出すためにあるのだ!と主張していた訳ですが、ここに来て急にそのことが当たり前のように世の中でも語られ始めてまいりました。まさに、ウェルビーイングでありヒュッゲであり、そんな世界観はすでに語り続けてきたことだったのです。


私も含めて照明デザイナーの仕事は、目的に応じた照明環境をつくることで、何らかのビジネスの世界に役に立つことが期待されてきました。そして、その方法が経済的な妥当性・合理性があるのかが問われます。一方、その議論の中で、一瞬忘れられそうになる大切な価値があります。その空間で人は幸せであるのか、その空間を創ることで世界が幸せであるのか、ということです。

今コロナ禍によってもたらされた毎日の時間は、私たち人間に立ち止まって人生や仕事のことを改めて考える時間を与えてくれているのかもしれません。ニュートンが重力理論を完成させた時のように。

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