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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

スケッチの流儀

更新日:2022年12月14日


手で考える良さ


人は手を使って考える?

ある機械設計者の方が、メモや落書き、スケッチなどを手書きすることは頭の整理になり考えを深めることが出来る・・・と綴られているのを見つけました。この方は何かを思考するときに手を使って書いたり道具を作ったりすることで新たな考察が得られるというのです。哲学者・カントも「手は外部の脳である」と述べており、手を使うことは実際に脳の働きに直結しているという見方があるそうです。


私自身は、メモをとったりスケッチを描くような行為は、昔からの日常茶飯事です。そこに綴る内容が全て照明デザインに直結してるという訳ではありませんが、少なくとも頭の整理に良い影響を与えていると感じています。

 

メモの取り方が少し進化

私のメモ習慣については、2018年の投稿「メモと照明デザインと私」でもご紹介したことがあります。当時は手持ちのiPhone6と同じサイズのカード型メモ用紙(このサイズに特注したのですが)を使って色々な言葉やスケッチを残していました。


さて2022年どうなったかというと、これよりもさらに小さいA7サイズ(74 mm x 105 mm)のミシン目付きのメモ帳を今は使っております。このサイズだと洋服のポケットにも余裕で入ってサッと取り出せるので、電車の移動中に、はたまた車の運転中なら信号待ちのときにサッとメモをとることが可能です。それらはメモ帳に残しておくのではなく、ミシン目からピリッと破り取ってスマートフォンで写真に撮ってストックしておくという使い方をしております。


電子ツールを駆使したメモは実は今まで色々と試したのですが、最終的にこのアナログ+デジタルなやり方に落ち着きました。2018年の投稿にも書いてますが、アナログな私の流儀では紙のメモの方が圧倒的に脳と手にフィットするのです。

 

書いて描いて…

ところで、そのメモの内容はと言いますと、以前の投稿同様にまずは“言葉”があります。例えば、運転中ラジオから耳で聞いた面白い言葉、たとえば「雨の日に聞きたいガーシュイン」とか「ナノテク白熱電球」という何かのヒントになる言葉などです。それから空間を体験した時に忘れてはいけない数字、「東京駅の地下の〇〇の照度が125ルクスなのにめちゃくちゃ明るい感じ」といった情報は写真には残せない大切な情報となるからです。


ちなみにこの空間を記録する際に合わせて使っているのが小さなポケットサイズの照度計と2メーター巻き尺の二つなのですが、海外に頻繁に行っていた頃は空港に着くなり、気になった通路や階段の照度や寸法などを測ってメモに残します。そして、これらのスケールは後に大きな紙に描きなおすこともあります。


つまり何かを書いた紙自体が大切なのではなく、まさに手を使って描く行為によって頭の中に入ってくるのでしょう。簡単なメモに書いて、それをまた整理して・・・という作業の中で頭の中に染み込んでくるという感じです。そういう意味では“手で考える”という表現はまさに言いえて妙だと思うのです。

 

ルーティーンとしての手書き

とはいえ、私のスタジオで働く若いデザイナーに向けて、絶対にメモをとれ!スケッチを描け!と推しているわけではありません。


これはあくまで私の編み出した流儀であるからです。私は子供の頃から自動車の設計図のようなものを描くのが好きで夢のスポーツカーを描くノートを大切に持っていたり、大学時代には朝まで図面を描き続ける作業が結構好き!みたいな性格でしたから、絵を描くことが身体に染み付いて心地良いというのもあるのかもしれません。人によっては、一度聞いたり、見たり、考えたりしたことは、頭のしかるべき場所にインプットされ忘れることなど無いといった人間もいるわけですから、同じことを強要したって意味はないのです。


しかし、デザインもデジタルな作業で生み出される時代です。キーボードとモニターから生まれるデザインが増えてきています。そんな時代であればなおさら、カントが言う「外部の脳」=「手」で考えることの面白さが注目されているのかもしれないですね。


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