光の妙技はフェードにあり
- 東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

- 9月2日
- 読了時間: 3分

移ろいに照明を合わせる
日本語の奥深さ
最近、「あわい」という日本語に出会いました。これは大和言葉と呼ばれる日本古来の言葉です。その意味は間(あいだ)を言うようですが、少しニュアンスが異なるらしいのです。調べてみると、「合う」を語源としたAとBの重なるところや交わった空間、時間と時間や、人、環境などの重なり合うところを表現しているようです。
“あわい”で思い起こされる光
日本語というのは面白いもので、あわいと言う響きは、たとえ間(あいだ)と同じ事を指していたとしても、思い浮かぶ情景が違ってきます。
あわいの光と言ってみて、すぐに思い出したのがホールの客電照明での暗転の方法です。ホールの照明では舞台の公演が始まる際に客席の部分を暗くします。この暗転はゆっくりと行い消灯するわけですが、実はそこにはちょっとしたルールが秘められているのです。
まず、最初の明るさから20秒ほどかけてゆっくりと暗くしていき20パーセントのところまで絞ります。そこからそのまま0パーセントに絞るのではなく、その明るさで一息つくように2秒ほど止めるホールドタイムをとる…そして、そこからさらに時間をかけてゼロまで落とすのです。
何故ひと息いれるのか?
実はこれ、舞台照明の方に教えて頂いた話で、何故そうするのかと聞いたら、その方も先輩達からそういう風にやるもんだとノウハウとして教えられたとのことで、何に由来するのかはわからないと言うのです。
舞台照明の世界には上限・下限という概念があります。かつては白熱電球を使っていた訳ですが、100パーセントのフルパワーで出力してしまうとすぐに切れてしまうので、上限値を設定します。上限値を90パーセントに設定すれば調光フェーダーで一番上に上げても90パーセントの明るさまでしか行きません。
また、下限値の設定にもちょっとした理由があります。白熱電球というのはスイッチを入れてもすぐには立ち上がらず、光がスイッチよりも出遅れるのです。そこでゼロではない10パーセントの明るさを下限値として設定しておけば、調光フェーダーでの上げ下げで光が遅れるということはありません。
この下限値の存在が20%であったとすれば、上限値から20秒をかけて下限値まで光を落とし、そこで一息ついて暗転という手順になったのではないかと推測します。
照明の切り替えが気持ちの切り替えに

ホールの客電照明に培われたこのような光のストーリーはなかなか素敵じゃないですか?!
そこには期待感や高揚感、「さあ!」という気持ちがあり、暗転の光が一気にストーンと落ちてしまうのではなく、ゆっくりと…そして一瞬ひと息ついて、暗くなるというのはとてもロマンティックです。
そのような照明の世界、まさに舞台という異世界との“あわい”を作る素敵な世界観です。
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