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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

展覧会「MIND LIGHTNESS」


展覧会「MIND LIGHTNESS」イメージヴィジュアル
photo by LIGHTDESIGN INC.

光は自身の心の中にある!


久しぶりの展覧会を開催します


二十数年前のことになりますが、私が照明デザイナーとして独立し事務所を構えたのは、銀座にある奥野ビルで、昭和初期に建てられた二丁掛タイルで装飾されたレトロな雰囲気を漂わせる7階建ての建物でした。そこに入居したいきさつについては、過去のブログ投稿「独立の仕方!」をご覧くださいませ。その建物に事務所を構えて、仕事をスタートさせ都合9年間ほどお世話になったのですが、ここには大変魅力的な方々がいらっしゃいました。


その中でも懇意にしていただき、応援いただいている方は3階のギャラリー「巷房」のオーナーでした。「デザイナーという仕事は、人から頼まれた仕事を上手にする人なんでしょうが、時には自分から発信するようなことをしてゆかないと新しい感覚を磨くことはできないのだから、このギャラリーで展覧会をやりなさい!」


そんな勧めがあって、私は、幸運にもこのギャラリーで個展を開催する機会を得ることになったのです。そして、今年は7月3日(月)から7月15日(土)の間、「MIND LIGHTNESS Watch inside yourself 東海林弘靖 展」を開くこととなりました。今回はその展示についてお話ししたいと思います。

 

照明デザイナーが考えていること


ギャラリーという空間が与えられて、お越しになる皆様に何を発信するのか? 自由に、心の底で感じていること、何でもよいから何かをやりなさい!というミッションは、普段は様々な与条件を紐解くデザインの仕事の手順とは全く異なっています。自分のやりたい表現や創造を自由にやって良いよと言われると、私は急に悶々となってしまいます。デザイナーからいわばアーティスト(ちょっとぎこちない気がしますが)としての責任を感じながら、これまでも様々なことを表現してまいりました。


たとえば、2011年の東日本大震災のあった年の展覧会では、コンセントから電源を取って何かを光らせる感覚が全くなかったので、まずは発電からデザインをするという発想で、炭電池装置から製作し小さな発光ダイオードを微かに点灯させる「美暗花繚乱」を発表。2016年の展覧会では、同じく炭電池による発電から行い有機ELシートを用いて「〇△□のOLED」を作り出しました。2020年はワイン発電、これはアルコールが酢になる過程のエネルギーを発電を行い、私が長年意識してきた美暗を思わせるかすかな明かりを灯すというような趣向でした。どれも微かな灯りですが、人と光の関係性を見つめ直し「その大切さを振り返るきっかけになればうれしい」と願いを込めてきました。


さて、今回は、3年間にわたるコロナ禍で私の考えは「人の心身は太陽や月そして星の光と深いつながりがあって、照明はその上でなりたっている」というごく普通のことに気が付いたのでした。


私自身、郷里の福島の自然の中に身を置き、太陽の光を浴び、あっという間の夕陽を感じ、夜の闇に恐れおののき、鳥の声とともに始まる未明の光に幸せを感じる…という時間を得ることになったのです。そうした経験はまだ始まったばかりなのですが、うっすらと次のように考えるようになりました。それは「自然の光であれ、人工的に作られた光であれ、その光と出会った時には、目の前にある光をトリガーとして、自分が過去に経験した光景を思い起こして反芻しているのではないか?そんな仮説でした。

 

展示会場にて


視覚87パーセント、聴覚7パーセント、触覚3パーセント、嗅覚2パーセント、味覚1パーセントを視覚化したイラスト
image by LIGHTDESIGN INC.

さて、会場の巷房は地下1階と地上3階の2つのギャラリーで構成されているので、それぞれの空間で異なった展示が展開されます。


インスタレーションの一つは、ぼやけた映像…これは福島県のとある場所からライブ配信されるのですが、同時にきわめて美しい音が届けられるのです。小鳥のさえずり、風の音、虫の声など、耳から入る鮮明な聴覚情報を得ながらも、不十分な視覚情報を前にしたときに、私たちはより多くの視覚情報を求め、補い、かつて経験した光景を自らの内に探しに行くに違いない…そんな展示となっています。


人間の五感は目から入ってくる情報が87パーセント、耳は7パーセントという比率で認知しているとのことですが、それを逆転させてみようというインスタレーションなのです。


それから、このインスタレーションとは別に私が初めて「光の断片」を描くことに挑戦いたしました。小さな作品ですが、これまでに私が経験した光の景色から断片を採取する試みです。私の心の中にある光の景色をご覧いただくことは、少し気恥ずかしさもあるのですが、人と光の関係性を見つめ直しその大切さを振り返るきっかけになれば嬉しいと思っています。

 

光や照明が私たちにもたらすもの


Watch inside yoursel=あなたの中を見て、MIND LIGHTNESS=心の光を見出して頂くというタイトルは、アメリカのIT企業の働き方に取り入れられているマインドフルネスから触発されたものですが、照明や光が「明るくする」機能のみを求められるのではなく、心をととのえたり、モチベーションを高めたりするという大きな機能こそが、人間の幸せにつながるのではないか?という思いを馳せ企画した展示になっております。是非、お近くにお越しの際は気軽にお立ち寄りください。


─ Exhibition Information ─

会期:2023年7月3日-15日 12:00-19:00 (最終日は17時まで)

会場:巷房 (〒104-0061 東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル3F,B1F)




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