アフターアワーズの照明


つまり営業後の光


仕事が終わったら・・・


アフターアワーズ(after-hours)という言葉をご存知でしょうか? 英語で、勤務時間後とか営業時間後、閉店後のという意味で、会社で考えると日本で言うところのアフターファイブといったところでしょうか。たとえば、物販店ならば20時~21時以降、飲食店であれば、23時以降からもっと遅い深夜の時間帯を示すことになるかもしれません。


まずは、それぞれの店舗が営業を終了したのちの明かりがどうなっているのかを思い出してみましょう。私のスタジオのある銀座では、決して営業を終了したからといって、すべての照明を消灯させているところはほとんどありません。本日のブログでは、お店のシャッターが下ろされ、人がいなくなった空間、そこではどんな目的でどんな明かりが広がっているのかについて考えてみたいと思います。

百万ドルの夜景の謎

こういった話題については、今まで何度か考えたことがあります。ひとつは、もうだいぶ前のことで、人生で2回目くらいにニューヨークを訪れ、夜中にエンパイヤステートビルの展望台に上った時の事です。ここはマンハッタンの夜景を見るには絶好な所で、わぁ綺麗だなぁ!と感動しながら一人で写真を撮っていたのですが、ふと気づいたことがありました。


実はこの展望台は結構夜遅くまで営業しており、最終の上りエレベーターが午前1時15分で、営業時間は午前2時までです。この時私がここに来た時刻はたしか12時くらい・・・、オフィスの窓が光っているけど、こんな時間までみんな仕事しているのだろうか? いや、そんな訳はない!となれば、世界に誇るニューヨークの百万ドルの夜景のために照明をつけているのかな?などと思いながら帰ったのです。


その後、ニューヨーク在住の照明デザイナーにこの話をしたところ、もちろん大体の会社員は6時くらいで帰るし、そんな時間まで仕事をしている訳は絶対あり得ない。恐らくセキュリティ上の理由で照明を点けているのではないかということでした。なぜなら、昔は防犯カメラの性能が今ほど高くはなかったので、ある程度の明かりを灯してモニターチェックをしているのではないかという意見だったのです。ちなみに今から30年くらい前のお話しです。


つまり、ここニューヨークで語られた営業後の照明の目的は「防犯」ということになるのでしょう。アメリカは日本のような安全な国ではないので、防犯のために照明を点灯させるのは至極当然のこととなるのでしょう。

明かりに込められる“意味”

一方、同じニューヨークでもまた違った理由で使われるアフターアワーズ照明もあります。それはpas de calais(パドカレ)という日本のアパレルブランドのニューヨーク・ソーホー店の照明デザインを担当したときのことです。このプロジェクトでは深夜でも道行く人々に店内に置かれた商品を見ていただきたい・・・という思いから、夜中のシーンを作っています。このシーンは、昼間のシーンほど明るいわけではありませんが、ある程度空間の様子が分かる照明と窓から見えるマネキンを狙う光などを調整したシーンを組んでいます。つまりここでは “show”のための光ということになるのでしょう。


それから、さらにもうひとつのアフターアワーズは「終業後」にまつわるエピソードです。歴史を少しさかのぼりますが、その場所は、ニューヨークから車で2時間ほど走ったところにあるペンシルバニア州クーパーズバーグという街での話です。この街にはルートロンとい世界的な調光器メーカーの本拠地があり、そこを訪ねた際に聞いた大変心温まる話なのです。この街は18世紀にドイツ人の入植によって開拓された街なのですが、昼間に仕事に出かけた開拓民の人々が、陽が落ちて仕事を終えて帰って来るときに、その疲れを癒すため、そしてねぎらいのために、窓辺に明かりを灯す習慣があったのだそうです。そして、その習慣は、今日においても継承されていて、窓辺に電気スタンドを置いているのだ・・・というのです。このクーパーズバーグのアフターアワーズ照明には、“ねぎらい”の気持ちが込められていたのです。

照明は社会性を持つ


アフターアワーズの光には、このように様々な意味がこめられています。この光は決して無駄に点いているのではありません。明かりによって勇気づけられたり、元気が出てくるといった見る側の利益という側面にも注目し、上手くテーマや目的を持って照明を使っていくということが重要なのでしょう。そういった社会性を持ったアフターアワーズの照明をどうするのか?という議論がそろそろ始まっても良い時期なのかもしれません。


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