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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

♪あー水色の・・・


光のソムリエ第125回「あー水色の・・・」メイン画像-新宿三井ビルの車寄せ
photo by Hiroyasu Shoji

ホスピタリティが感じられる車寄せ


水色の間接照明


♪水色の・・・の次に、「雨~・・・」とすぐに連想する人は、1980年代前半に大学の製図室でラジオを聞きながら図面を書き続けていた人に違いないでしょう!(そう、私のことです。)


その頃、大ヒットしていた八神純子さんの「みずいろの雨」、私なんぞは、折に触れ今でもその曲が頭の中に響きまわっています。20代前半の建築学科の学生は、自分の設計の課題や、先輩のコンペの手伝いなどで、日夜製図室を棲み処とし、心の友はFMラジオもしくは誰かがかけるカセットテープデッキから聞こえる「みずいろの雨」だったのです。


・・・いきなり回想風の出だしになってしまいましたが、今回のテーマは、水色の間接照明です。間接照明へのこだわりは、単に納まりやディテールを超えて、光源のスペクトルに及んできたのです。ここのところ、数年をかけて改修を行ってきた新宿のとある超高層ビルの車寄せの照明プロジェクトについて話してまいりましょう。

 

ビルの改修、その場所とは・・・


さて、その超高層ビルというのは、新宿副都心に、1974年に建てられた新宿三井ビルです。この建築は40数年の時を経て数年前からリニューアル工事が行われていたのですが、私たちは地階の車寄せ空間を大幅に改装するということでプロジェクトに参画させていただきました。


聞けば、このビルは、持ち主である三井不動産が特に力を入れて作り上げた超高層建築で、この由緒正しき超高層建築の中には、今日の日本を代表する一流企業の本社が数多く入っているのです。そんな超高層建築の顔となる車寄せ・・・、ここには一流企業の社長・役員の方々が毎日通られるのです。


この空間を東京で最も素敵な空間にしましょう!と、新しい時代のホスピタリティが感じられるデザインを提示することがテーマとなり、照明デザイナーの参画が求められました。そんな具合に、この改修は3年前から始まり、まずは車寄せからビルに入る部分が改修され、これが好評だったらしく、その後エリアを拡張した2期工事、さらには3期工事として車寄せに隣接する車道、地上からのアプローチ部分までを改修することになりました。

 

電球色を引き立てる水色


この改修によって車寄せは非常に素晴らしい変身をとげました。写真をご覧いただければ一目瞭然なのですが、まずはコンシェルジェが車の到着を待っています。そこは上質で演色性の高い温かい光に満ち満ちています。光源は見えず、完璧にグレアを排除した美しい光環境です。この空間の完成の後に、3期工事では、車寄せの外側に広がる車道の部分もリニューアルすることになりました。


この建物に出入りする人が仕事を済ませ、車寄せから車に乗り込もうとした時に見える光景、この一瞬の景色をも丁寧につくろうというのです。私はこのリニューアル計画をリードする建築家の方と協議し、「車に乗り込もうとする一瞬」に颯爽と立ち去る心地よさを感じてもらえるような光景とは、どういうものかと技法を探りました。そしてその結果導き出されたのが「水色の間接照明」となったのです。

 

なぜ水色なのか?

壁に浮かび上がる淡い水色の間接照明
壁に浮かび上がる淡い水色の間接照明 photo by Hiroyasu Shoji

水色になった理由は、まず、これだけ広い空間をすべて電球色で統一してしまうと奥行きのない雰囲気になってしまうのです。そこで、少しスパイスを加えたいと考えました。電球色に対して色彩の対比を見せる光源、シルバーに塗られた車道部分の壁面にさらに繊細なニュアンスを与えるべく間接照明として光を与えようと・・・。


電球色と対比する色、それは水色、もう少し説明すると色温度をグーッと高くした青空のような光・・・、イメージとしては雲の上を飛行する航空機の窓から見える光で、およそ8000ケルビンの光をスペックしています。車寄せに立ち、黒塗りの社用車の背景のメッシュのパーティションを透かして見えるその水色の間接照明は、まるで地平線のようにふんわりと優しく浮かび上がって見え、なんだかとても癒されるのです。そう、あの時聞いていた、“みずいろの・・・♪”、あの歌のように・・・。


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