頭で考えるより心で感じる
あたらしい季節に
みなさま、2025年も春めいてまいりましたが、いかがお過ごしでしょうか? 今年も光や照明にまつわるワクワクするような話題をお届けしようと、出来る限り時間を見つけてメモメモ・・・という気概であります。
さて今回は、これからの時代のあたらしい照明についての考察をしてみます。
5人の照明デザイナー(内原智史・東海林弘靖・武石正宣・東宮洋美・富田泰行)による円卓会議・照明楽会では、昨年12月から新たな照明のテーマを打ち出し、トークイベントを開催しました。そのテーマは、「光のロマン主義 照明は光の交響詩」というものです。大分振りかぶったテーマではありますが、まずは何故このテーマになったのかをご説明しましょう。
ロマン主義とは?
ロマン主義は、ヨーロッパで文学運動として18世紀末に始まり、その影響を受け19世紀の初めには音楽界にまで広まっていった芸術表現活動です。
それ以前の音楽は絶対音楽と称され、詩や絵画のような情景イメージを持たず、純粋に音そのものの構成を重視していました。しかし、ロマン主義では、個人の感受性や主観を大切にして物語を作るようになっていったというのです。
シューマン、シューベルト、ワグナー、ショパンなどがその代表的な音楽家です。「理論よりも感性、形式よりも想像力、頭よりも心」に重きを置いた時代がはじまったのです。

今の時代、照明デザイナーが携わる多くの建築照明は機能主義的な空間条件に基づいて照明を設計することがベースとなっています。たとえばオフィスならば、「この環境は執務空間だから明るさは750ルクス、影ができないような光環境で」「エントランス空間は・・・」と言った具合に、合理的に空間を強化することが求められる仕事なのです。それは近代建築の思想と相まって、光も表層的な装飾とは一線を画す、建築の骨格となるような重要な役割を期待され進化してきたように思います。
しかし、照明は人と建築をつなぐ軽やかな存在として、いわゆる合理性だけで語ることのできない魅力も持ち合わせています。円卓会議・照明楽会のメンバーたちもいつの頃からか、仕事の中にそうした光の自由さ、柔軟さ、人間の感性をくすぐる光の可能性を模索し、取り込むようになっていたのです。そして、それは照明デザインにおけるロマン主義と言えるのではないか?!という話になったのです。
感性を生かすために
折しも、ここ数年で照明デザイン業界にもAI技術が到来してきました。日本においても生成AIソフトによる照明設計サービスが登場しています。空間の各種データを入力することで即座に照明設置案を出力してくれるAIソフトを作った会社もあるのです。現代における建築照明は空間の機能から光をロジカルに配置するテクニカルライティングという手法がベースとなっているので、比較的容易にAIによる照明設計が可能ということかもしれません。
このような時代に、人間照明デザイナーに求めるものは何か?と考えると、先に言及した合理性だけで語れない部分のデザインや独自性、つまり理屈よりも感性の部分だと言えるでしょう。このような背景があって「照明デザインにおけるロマン主義」をテーマにしたのです。
光のオノマトペ
20年以上続く円卓会議・照明楽会の活動は、年に1度の学習発表会で活動成果をお披露目してきましたが、おおむね3年間で一つのテーマを掘り下げています。この「照明デザインにおけるロマン主義」をテーマにした1年目は、照明デザインをあえて感覚的とらえてみるチャレンジの会となりました。
これまでは照明環境を伝えるワードとして、
「平均照度が何ルクスである」
「色温度は何ケルビン」
「演色性はいくつ」
みたいな表現となったのですが、
ロマン派でのワードは、
「スーッと光が進む」
「ホンワカする光」
「きらっきらする光」
「ポーンと光を置く」
のような言葉になるのではないかという考え方です。
もちろん、数値的な照明の捉え方を否定するわけではないのですが、数値を習慣的にとらえている人はもっとこういった感覚表現を上位において、より繊細な照明デザインを進めてみてはどうかという新しい方法論の提案になりました。
ここで使っている擬音語や擬態語「スーッと」「ホンワカ」は、オノマトペという言葉です。それは以前このブログで考察した光のオノマトペを改めて紐解くような進行となったのです。
照明は感性を上位におき、空間に接地する人間の感覚に焦点を当てていくことが、ただ空間を明るくする物差しだけではなく、新しい物差しの登場を促すものなのでしょう! 私たちにとって大切なことは、光の空間の中で私たち自身の物語を生み出すことなのだと思います。
人生百年時代、より豊かな人生の時間を楽しむことに貢献する照明になっていく・・・、それがこれからの時代のけん引力になってゆくんじゃないかなぁ・・・と思う春なのです。