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大阪・関西万博を振り返って

  • 執筆者の写真: 東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji
    東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji
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夕闇時に大阪・関西万博の大屋根リングで景色を楽しむ人々
Photo by LIGHTDESIGN INC.

いのち輝く人間の未来図


万博への様々なリアクション


2年前、このブログで大阪・関西万博の照明デザインのディレクションを担当することをご報告させて頂きました。それからはや2年が過ぎて、半年間の開催に無事幕を降ろすことができました。


これまでの万博と同様に、開幕してすぐは来場者数の伸びず、中には開催そのものを揶揄する声もあったのですが、協会が事前に発表していたとおり、夏あたりから来場者数はぐんぐんと伸び、会期の終盤になると来場者数は2000万人を超えて連日の満員御礼が続きました。何より万博が楽しくて何度も訪れるリピーターが増えているという話も関係者としては嬉しい限りでした。


ところで、照明のあり様や評価についてはいったいどうだったのでしょうか?


照明デザインのディレクターというよりも、光のソムリエとしての感想をお話したいと思います。

会場を回ってみて


私は開幕してから合計14回ほど、会場に足を運びました。夏の暑さもあったので、そのほとんどが照明が確認できる夕方からの入場でした。


会場は直径600mの大屋根リングの内外に広がっていて、その中は特別な交通手段がないので、自由にめぐりたい私にとって頼りとなるのは自分の足だけ・・・という状況でした。(会場を巡回するe-Moverバスや、歩行に不安のある方のための電動カートは用意はされておりました。)


そんなわけで、一度会場に入ると必ず大屋根リングを一周してから、中央の「いのちパーク」に。「静けさの森」を見て、いずれかのパビリオンのカフェで休んで帰る・・・というパターンとなりました。そして、気が付けば2万歩を優に超えていたのです。

 

その感覚には、アナログとしての連続的に変化する情報を滑らかに表現している面白さがありました。


海に迫り出した直径600mの大きなリングを歩いていると、ときおり丘に登る小径があって、それを進めば、はるか遠く六甲の山並みが見えてきます。また、大屋根リングの北東側外周部まで登れば、リングの外の大阪のビル群も望むことができました。


案外視界の変化が大きいリングの散策は、その途中に風に揺れる通称”イルミ草”のキラメキを楽しみながらあっという間に半周してしまいます。残りの半周はリングに接近するように立ち並ぶパビリオンを見ながらのんびりと歩きます。


歩きながら、大きな空を感じ、風を感じ、海の匂いを感じる体験は、ARやVRが一般化した今日においては、むしろ新鮮な楽しさであったのでしょう!

万博の意義とは?


万国博覧会は18世紀後半の産業革命の盛り上がりと共に、第一回が1851年にロンドンで開催されました。当時、様々な技術が発明・実用化されていく中で“技術が未来を作っていく”というような感覚があり、建築分野においてもガラスや鉄を使ったこれまで見たことのない巨大建築が建設され、それが万博のシンボルとなりました。

 

55年前の大阪万博では、会場の中央にあるお祭り広場が作られました。そこには丹下健三さんが立体トラスで組んだ大屋根が設置されたのですが、その中央に岡本太郎さんの太陽の塔を存在させ、そちらが万博のシンボルとなりました。

 

パビリオンには、アメリカのアポロ宇宙船が持ち帰った「月の石」が人気を呼び、加えて未来のテレビ電話や人間洗濯機なる未来の暮らしを予感させるアイテムが並びました。


それから55年の月日が過ぎ、テレビ電話は皆がポケットに忍ばせる時代となりました。空飛ぶタクシーこそ飛行はできなかったもの、すでに私たちは55年前に想像した未来の暮らしをしています。

リアル体験の再考

大阪・関西万博会場の夜の「静けさの森」
静けさの森 Photo by Akito Goto 

世の中がそういった便利になった一方で、人と人とのつながりや思い、精神的な豊かさを失いつつあることにも気づきだしています。そんな時代の万博「命輝く未来社会のデザイン」はひとつの輪に世界が集い、体験を共にすることに大きな意味を感じました。


会場を訪れた時に、こんな体験がありました。


夜間に静けさの森で蛙の声がするねと独り言を言ったら、それを聞いていた案内スタッフの方が「こんな大きな蛙が住んでいるんですよ!」と近づいてきて、スマホに映っている蛙の写真を見せてくれました。案外暗い静けさの森ゆえに蛙の大合唱があり、蛙を通した人と人とのコミュニケーションが生まれたのです。


静けさの森のほの暗さが、我々を視覚よりむしろ聴覚情報を頼りに歩かせ、自然な夜の暗さを手にした蛙たちは大合唱を始めました。そしてそこでは人と人とのコミュニケーションが生まれた・・・。

 

何なんだろう? あたらしい技術が人類の未来を切り開いてきたものの、技術革新ばかりに猪突猛進に進む時代が続き、振り返ってみると母なる地球や他の生物のことを置き去りにしていなかっただろうかと・・・。それゆえに招いたのが地球沸騰化、気候変動なのか・・・、ヒトを含むすべての生物が困惑しています。


命輝く未来社会のデザインという万博のテーマは、産業革命以降人類が迷いなく走ってきた「未来」の意味を改めて考え直そう!ということだとしたら、きっと万博を訪れた方には届いたのかなぁ。



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