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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

2025年大阪・関西万博のあかり_未来を見つめる“新しい夜”を!


大阪・関西万博の会場イメージ
提供:2025年日本国際博覧会協会

いのちが輝く夜の在り方


新たな時代に向けて


明けましておめでとうございます。本年もこの「光のソムリエ」では様々な光や照明の話題をお届けしますので、どうぞよろしくお願いいたします。さて、2023年最初の話題は未来のお話です。この度、2年後2025年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)の会場照明デザインディレクターを担当させていただくことになりました。この万博では以前の投稿「進化する建築プロセス」で紹介した建築家の藤本壮介さんが会場デザインプロデューサーを務められ、私はそのサポート役としてとして照明デザインのディレクションを仰せつかったのです。

 

未来に向けたテーマとは?


大阪・関西万博では「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマが掲げられ、それを会場デザインで実現し来場者が新しい時代を肌で感じながら快適に楽しんでもらえるような計画になっています。このテーマはさらに「いのちを知る」、「いのちを育む」、「いのちを守る」、「いのちをつむぐ」、「いのちを拡げる」、「いのちを高める」、「いのちを磨く」、「いのちを響き合わせる」という8つのテーマ事業が設けられ、各パビリオンや展示で発信するというもので、理念とテーマ事業の考え方についてはこちら(公式サイト)から確認することができます。


人類は、利己を優先するあまり、自然環境をかく乱し、さらには同じ人類の他の集団の犠牲の上に、不均衡な社会を作り上げてきてしまった”、“そして今、生命科学やデジタル技術の急速な発達にともない、いのちへの向き合い方や社会のかたちそのものが大きく変わりつつある”


そんな現状を省みて、“世界の人びとと、「いのちの賛歌」を歌い上げ”、“他者のため、地球のために、一人ひとりが少しの努力をすることをはじめる”体験から創造的な行動を促す場を作ろうとしているのですが、従来のような技術や豊富なエネルギーに由来した未来像のプレゼンテーションとは異なり、人間や生きることに重きが置かれているのが今の時代を捉えたテーマと感じています。


そこで、私はこのテーマを実現する照明とはいったいどのようなものであるのかについて考えをめぐらせることになりました。

 

夜を奥深くした日本の文化

広辞苑第三版の”時”を示した図
画像出典:広辞苑第三版“時”より

かつて日本では、24時間を1日とする時計が一般化していなかったので、昼と夜を日の出と日没を区切りとして昼と夜とに分けていました。そのうえで、さらに昼・夜の時間が細分化されていたようです。上記の図はその時代に使われていた1日の時間を示したものです。


一番外の枠に24時間表示、その内側は正午を九つとしそこから九つ半、八つ、八つ半、七つ…四つ半と刻んだ数え方、さらに内側は子丑寅…と十二支を使った表記があり、その内側に朝、昼、夜が細かく12区分されています。そこの「夕」から暁の間、つまり夜の部分を見ると、暮、宵、夜、真夜、そしてまた夜となっているのがわかります。


万博の照明を考えるにあたって、私はこの昼夜の表記法に注目しました。特にこの「暮」、「宵」、「真夜」にフォーカスしたのですが、それは暮から宵にかけて次第に人間の眼が薄明視から暗所視へと自然に移行する大切な時間帯で、この時間帯の照明の在り方を工夫すれば、無駄なエネルギーを使うことなく、光を繊細の捉えることができ、美しく安定した夜が楽しめるようになるはずだと考えています。

 

夜の深まりをみんなで楽しむための光


薄明視とは人間の眼が明るいところから暗いところへ移動したときに、視細胞の錐体と杆体の両方が働いていて、0.1ルクスくらいでも十分に視認することのできる視神経システムの領域を示します。以前「黄昏時はどんな時?」に書いた黄昏時の環境であり、また「闇の質を考える」で考察した夜空の星のきらめく明るさが感じられるような環境です。それを私は、「美しい夜空にハーモナイズする地上の光」と呼ぶことにしました。


象の鼻パーク光の道しるべとなる足元照明
象の鼻パーク 光の道しるべとなる足元照明 Photo by Toshio Kaneko

このイメージを具現化するためには、星が見えなくなるほどに煌々と照明を灯すのではなく、人間の身体と環境に配慮した必要十分な明るさを設定することが大切です。


公共の外部空間としての安全な明るさを確保しつつも、まぶしさを与える不快グレアや無駄な光を徹底的に排除し、足元を照らす「光の道しるべ」のような照明によって、気持ちが落ち着いて安心できるような光環境を生み出して行きたいと考えているのです。そして、そうすることによって万博会場において、夜が深みゆくさまが楽しめるようにと考えています。


それからもう一つ、私は江戸時代に東海道の宿場で行われていた慣習に興味を引き付けられました。それは旅人が投宿するとろうそく一本と燈台が渡され、その灯りを携帯し宿屋内を移動し書を読むためにも使ったという、今で言うところのパーソナル&ポータブル照明システムです。


この江戸の照明文化にならい来場者のみなさんが会場で自分の照明を持って探索を楽しむような万博ランタンの仕組みを考案しました。もちろんその電源としては太陽光による再生エネルギー、それもソーラーパネル付きLEDランタンみたいな小さなシステムを活用するのが良いのではないかと思ったのです。

万博ランタンをイメージしたスケッチ
万博ランタンをイメージしたスケッチ Illustration by Hiroyasu Shoji

それは普通のランタン型のものから、提灯型、帽子タイプや傘タイプなどの展開が考えられると思います。自分の好みに合わせて選び、みんながこれを使うことによって、道中を行き交う人の存在が光となるのです。


それはひとりひとりのいのちの光であり、光の集まりが人々の集いを示す…、そんな光環境を万博会場で体験してもらえたら、と考えているのです。万博開催まであと2年ほど、地球の未来をしっかりと見つめて進んでいきたいと思います。


本年もどうぞよろしくお願いいたします。



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