進化する建築プロセス


Shiroiya Hotel / 白井屋ホテルのラウンジエリア
Shiroiya Hotel photo by AKITO GOTO

照明デザイン・プロセスの新感覚


群馬県前橋市のリノベーションホテル


2020年の12月、群馬県前橋市にちょっと個性的なホテル「SHIROIYA HOTEL」が誕生しました。ここは「白井屋旅館」という江戸時代から続く由緒ある旅籠だったそうですが、70年代に鉄筋コンクリート造の近代的なホテルへと変遷をとげたものの、2008年に惜しまれつつ廃館してしまっていたそうです。それを昨年末、「SHIROIYA HOTEL」として蘇らせたのが、アイウエアブランド〈JINS〉の社長である田中仁さんでした。田中さんは、前橋市のご出身で 「めぶく。」まちとして大きな変貌を遂げる前橋に新しいまちづくりの拠点を創造すべく、建築家の藤本壮介さんにホテルの設計を依頼したのです。


藤本さんとの初めての仕事にワクワクしながら仕事を進めていくことになったのですが、それに輪をかけるように様々なアーティストやデザイナーが参画しワクワクが加速するプロジェクトとなったのです。

 

新進気鋭の建築家


私がプロジェクトに参加したのは、2016年の冬で、私は幸運にも藤本壮介さんが田中仁さんにプレゼンテーションする機会に同席させていただいておりました。一枚の絵に「土手っていいな」と書いてあり、このホテルの元の骨組みやコンクリートを活かしたままそこに敷地の高低差を利用して土手を作ろうというプレゼンだったのです。藤本さんの気取らない話し方は大好きで、驚きの大きな、わくわくするプレゼンテーションを見せていただきました。

Shiroiya Hotelのグリーンタワー
Shiroiya Hotelのグリーンタワー photo by AKITO GOTO

出来上がった建物の写真を見ていただくとわかりますが、こちらのグリーンタワーは土手のように盛り上がった傾斜面の中に建築が入っているような構造になっており、中には客室が組み込まれています。また土手の上にも小さなシェッドがいくつか建てられています。ヘリテージタワー(一番上の写真)では、既存の骨組みを残して床スラブは取り払われ、そこには大きな吹き抜けが作られました。この吹き抜け空間には結構な密度で、大きな植物が配置され、それを取り囲むように迷路のような階段と空中回廊が広がっています。

 

いろいろなデザインとアートが重ねられて出来上がる空間…


プロジェクト開始当初、ヘリテージタワーの吹き抜け空間には写真の中に見られるほどの高密度の樹木は描かれていませんでしたし、後に何かしらのアートは来るんだろうな・・・とは思っていましたが、予想以上にどんどん多彩なアートが入ってくることになりました。田中仁さんも藤本さんもこの建築を作りながらどんどん出てくるアイディアを深化させていったようにすすめていったのでしょう!


先ほど紹介した土手の上の小さなシェッドの一つには、宮島達夫さんの作品の展示室があります。また、藤本さんをはじめレアンドロ・エルリッヒ、ジャスパー・モリソン、ミケーレ・デ・ルッキのデザインする客室が、プロジェクトを進めていく過程で突如現れたりしたのです。とにかく様々なコンテンツがどんどんと追加され、重ねられるにつれ、建築はより味わい深くなっていきました。複雑で余韻が長い丁寧に醸造され熟成を重ねたワインのようなテイストに仕上がったっという感じなのです。

 

多様性を求める時代に


吹き抜けの柱と梁に気ままに寄り添うように配された光るパイプはレアンドロ・エルリッヒさんというアルゼンチン在住のアーティストの「Lighting Pipes」という作品です。その名の通り光るパイプなのですが、最初はこの建築になじむように電球色のLED光源を入れていたところ、ある段階で「色彩を持つ光にしましょう!」ということになり、夜には赤やピンク、青などに色が変わるという仕様に変わったのです。


これまでの近代建築デザインでは、できるだけイロイロな要素を整理して統合させようと考えることが多かったと思うのですが、ここでは、あえて建物に複雑なレイヤーを重ねてそれらを透かせて見せる面白さをめざしていったようです。最初から完成された完璧な物と物との関係や間などを緻密にデザインするのではなく、ある種の偶然性のようなものを大事にし、そこにどんどん重なっていく凄味や美学を新しい空間の価値として導こうというような新しいデザインの哲学のようなものを感じました。


それは今の時代らしい多様性というか、いろんな価値観が複雑に絡み合いながら周りを形成していくやり方であり、そういう新しい感覚を持つ建築家の到来が未来なのか、と感じさせられました。


このプロジェクトでは、今までとは勝手の違う照明デザインプロセスを体験し、苦戦しつつも濃密で味わい深いものでもありました。既存の手法で上手に照明をデザインするだけでは追従できないような新たな地平線が見えてきた…、やれやれ照明デザインはますます面白いなぁと思わせるプロジェクトだったのです。


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