日本と照明デザイン
偉大なデザインとは?
今年、2019年はバウハウスが100周年を迎えます。近代デザインの基礎を作ったと言われるこのドイツの美術学校は、ルーツをたどると19世紀末のイギリスで興されたアーツアンドクラフツ運動に行きつきます。当時の産業革命で粗悪な工業製品が大量に生産された状況に異議を唱える人が現れ、中世の手仕事に回帰しようと唱えた活動です。これが発展し、構築されていったのがモダンデザインという訳です。
そのデザインにおいて、良いデザインとは、いったい何なのかという問いがあります。
そのヒントの一つに芸術家のピカソが言った言葉があります。それは、“優れたアーティストは模倣する。偉大なアーティストは盗む。”というものです。盗めというのうは一体どういうことなのでしょうか?
過去に学べ
このピカソの言葉は、かつてスティーブ・ジョブズもインタビューで引用していたそうです。アーティストやデザイナーは新しい技術やトレンドを気にかけるだけではなく、過去に何がなされてきたのかを見ることが重要です。
過去の良いデザインやアイデアに出逢い、それを丸々飲み込んで独自の解釈や新たな視点で再構築していくことにより新たなデザインにすることが盗むということだと思うのです。
この話から、過去の茶人のエピソードから着想を得た照明デザインについての考察を記してみたいと思います。
未完成の美学
茶道はただお茶を点てて飲むだけではなく、美術や工芸、詩歌、書画、生け花、さらには茶室建築や造園などにまで至る幅広い総合芸術と言われています。ある茶人は茶室に向かう道すがらに置かれた灯篭にわざと火を入れないという室礼をしました。灯篭は照明装置なので本来灯りを入れるのが当然ですが、あえて火を入れずに完成していないような状態を作ったというのです。
完璧な状態ではなく、完成させないほうが客人をリラックスさせると考えたのかもしれません。この“灯さない”趣向を、照明デザインに応用するとどういう解が見出せるでしょうか。
日本での照明デザイン
ここ3、4年くらい、京都にご縁があって、いくつかの仕事をさせていただきました。
その多くのプロジェクトでは間接照明を施したのですが、建築に作られた間接照明用の溝に端から端まできっちりと間接光を入れるのは何か違う気がしたのです。その結果途中からスゥっと消えるような趣向を凝らすこととなりました。
この間接照明の扱い方は、居心地のよい空間の工夫を茶人から盗んだと言えるかもしれません。
建築照明デザインはアメリカで誕生・発展し、その思想と手法が約40年ほど前に日本に伝わりました。はじめのうちは、アメリカで行われていた照明デザインをそのまま日本で行っていたのでしょうが、ここにきてようやく日本的なアレンジができるようになったのです。
日本では茶道をはじめ世界に誇る様々なデザインがあります。そこからアイデアを盗み、現代日本の照明デザインに活かせるようになって進化していくのではないかと考えています。
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