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世界の夜は白くなる?

最終更新: 2019年11月13日


街明かりは人類への大きなメッセージ


街が様変わりしていた理由


7年ぶりにニューヨークに行ったという知り合いが驚きの変化を報告してくれました。それは、街路灯が全て白色LEDになっていて、マンハッタンだけでなく、ブルックリンやクイーンズなど、周辺の住宅街までもが隅々までとても明るくなっていたというのです。私も今年の初めにパリに行った時に同じことを体験しました。以前はオレンジ色だった街路灯が白色LEDに置き換えられていたのです。


これは今、世界中で同時に起きている変化なのでしょう。今回のタイトル通り、世界の夜は白くなっていってる訳ですが、こういった変化は、実は過去にも起きていたことを思い出しました。

その昔も、夜の街は白かった


考えてみれば、街路灯は公共インフラなのですから、経済合理性によって光源の選択がなされる構造になっています。今日まで、ニューヨークやパリ、ロンドンなど日本以外の都市で街明かりがオレンジ色だったのは高圧ナトリウムランプというオレンジ色の光線を発するランプを使っていたからで、この歴史は1970年台に遡ります


1973年に第1次オイルショックが起き、その影響でニューヨーク市は財政破綻寸前となるのですが、そこでアメリカの電機メーカーであるゼネラル・エレクトロニクス社が自社で開発した発光効率の高い高圧ナトリウムランプを街路灯に付け替えて電気代を削減することを提案したのです。


その当時、街路灯に使われていたのは水銀灯で、白い光を放つランプでした。しかし、このランプはそこそこの発光効率で都市に一定の明るさをもたらすためには電気代もかさむといった状況でした。そこで、GE社は、水銀灯に比べて3倍以上の発光効率を持つ高圧ナトリウムランプへの置き換えを提案したのです。


この置き換えによって電気代が3分の一になりました。一説によるとGE社は、NYのほとんどの水銀灯ランプを無償で高圧ナトリウムランプに取り換えた・・・ともうわさされました。このようにして世界各地で見られた水銀灯の白い街明かりがオレンジ色になっていったのです。

街明かりを作るもの


街明かりを作るのは街路灯だけではありません。現在、自動車のヘッドライトもLED化されており、新車の割合が増えるほどに、LEDの白い光が増えていっています。


これも、例えば「自動車ヘッドライトの変遷」でお話ししましたように、80年台のパリでは黄色いヘッドライトが法律で義務付けられていたので、車の密集する道路は黄色い光で覆われていたのです。このように地球上の街の色というのは、その時の技術とルールが決めていくというサガがあります。


そうだとすると、白色が悪いとか、電球色が良いとかの議論の余地はないように思えてしまいますが、最近気になる話をイタリアの照明関係者から聞きました。それは、フランスの法律で屋外における白色LEDの使用を制限しようとしているというものでした。


確かに、フランス政府機関ANSESの研究により白色LEDを夜間に浴びすぎることで身体リズムが狂ってしまうことや、眼の損傷の危険性などを指摘しており、現段階でANSESは家庭照明について温白色LED照明を購入し、青色光が集中するLED光源への露出を制限し、就寝前にLEDスクリーンを避けることを推奨しています。

街の色は人の心と共に

このフランスの話を聞いて、ちょうど新聞で読んだ印象的なインタビューを思い出しました。それはアメリカの政治学者のパトリック・デニールという方が「自由主義の失敗」という切り口で、現代社会の問題やその理由を語っていたものです。


今までの社会は経済優先で事を進めてきたが、その結果、人文科学的な教養=リベラルアーツが縮小され人類は破たんへの道を歩んでいるという警告です。リベラルアーツという学問は、「人間が刹那的な欲望に走るのを妨げる作用がある」のだそうです。


随分ドキリとくるメッセージです。

現在の白色LED化の話もまさに経済面からの見解であって、リベラルアーツを重要視するフランスではそういった経済だけが優先されるべきではないと、社会システムを全体で捉えられているのかもしれません。


日本では「それって省エネですか?」という価値観を超える人は、残念ながら多くありません。しかし、お金という刹那的欲望を超えて、人間の心身に沿った目線を養うことが出来れば、社会の光はまた変化するだろうと思います。


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