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執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

クセモノこそ、活躍の場がある


活かし方次第で引き立つ個性


“クセモノ”と言えば・・・


みなさん、スコットランドには「ハギス」という、かなりクセモノな伝統料理があるのをご存知でしょうか? これは羊の肉や内臓を大麦、カラス麦、ハーブなどと共に羊の胃袋に入れてゆでたものだそうで、香りの強そうな材料から察する通り、独特の味わいが特徴なのだそうです。クセモノだけに敬遠する人もいれば、虜になってしまうほど愛好家も多く、「ハギスは、満月の夜に心の清らかな者だけが目撃できる、くちばしを持ち全身が毛で覆われて丸っこいカモノハシのような動物だ」という架空のストーリーまで作られているらしいのです。


そんな愛すべきクセモノなのですが、照明の世界に置き換えると・・・? すぐに連想されたのが、トンネルの中でよく見られるオレンジ色の低圧ナトリウムランプです。この光もひとクセある特徴から、活用の場が限られているようでありながら、見方を変えればなかなか面白い存在にもなれる、まさにクセモノ照明だと思うのです。

 

世にも不思議な光の世界

低圧ナトリウムランプのオレンジ色の光だけの空間に入ると、人間の目にはちょっと変わった光景が広がります。それは物の色が全く判断つかなくなってしまうのです。あなたが自慢するイタリアンレッドのオープンカーもこのクセモノ光に掛かると、ただどす黒い鉄の塊に見えてしまいます。またドライバーの着ているビビッドな青いジャケットもグレーの地味な色にしか見えてこないのです。


これは光源が特定のオレンジ色の波長だけを持つために起こる現象です。この光は排気ガスやちりの影響を受けにくく、光が通りやすいのと、効率が高く24時間点灯させる必要があるトンネルでは電気代が安く済む・・・というのが採用の理由です。トンネル内の安全性を確保するためには、色の再現性を捨ててもしようがない!と考えているのでしょう。


しかし、そんな“色を失ってしまう”ような、クセモノ照明なんて、他に出番がないのでしょうか?

 

インパクトをデザインに


たとえば、私が時々講師を担当させていただいている「電球ソムリエ講座」では、受講者の方に照明の面白さを伝えるために、光の実験パフォーマンスとして、この低圧ナトリウムランプを使うことがあります。

左写真ー普通の照明下でのイタリア国旗とフランス国旗/右写真ー左写真の状態でオレンジ色の低圧ナトリウムランプを照らしたところ。イタリア国旗の緑色とフランス国旗の青が同色に見える
photo by LIGHTDESIGN INC.

この写真のように赤・白・緑のイタリア国旗と赤・白・青のフランス国旗も、低圧ナトリウムランプの下ではまるで同じ国旗のように見えてしまい区別がつかなくなってしまうのです。どうです?おもしろいでしょう?!


この面白みはオラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)という、光を活用したインスタレーションを自らのアート表現とするアイスランドの芸術家も作品のひとつで展開しています。また、実は私が照明デザインを担当している北京のホテルの高級レストランバーでも、低圧ナトリウムランプを用いています。


そこはルーフトップテラスに設置されたレストランで、お客様が屋外から店内に入る際のウェルカムゾーンを今まで見たことのないような空間にしようというアイデアから、低圧ナトリウムランプを使うことになったのです。エレベータでルーフトップに到着すると、そこには何やら秘密のスペースの入口が見えてきます。そして、その入り口を入ると、いきなりオレンジ色の光に満たされたエントランス空間に入り込みます。何とも不思議、非日常的な光のお出迎えにワクワクする・・・そんなクセモノなる使い方なのです。


豪華なシャンデリアや素敵なガラスのオブェの類では飽き足らない時代となったのでしょう!モノの価値を超えて、人間を取り巻く光の現象を空間に持ち込むことに着目する時代になったのかもしれません。普段はクセモノと敬遠されがちなオレンジ色短波長の光も、この時ばかりは、訪れた人をアッと驚かす楽しい光となってくれることでしょう。


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