科学者が発見した照度と色温度の関係
LEDに待望の機能が登場
皆様ご存じのように昨今の照明業界は空前のLEDブームに踊っています。とにかく経済性が高く新しい商品を開発し、同時に販売しなければならないのです。
かつてパソコンがブームであった頃に、「この商品が○○年秋モデルでーす!夏モデルに比べて30%速くなりました!」なんていう売り方がありましたが、今はLEDがそのような生産×販売のスピードなのです。そんな中で、最近、国内メーカーからも「おっ!いいじゃないか!」と思わせるようなLED製品が登場いたしました。 それはLEDの特徴を活かし、色温度と明るさを調節できるというものです。「色温度と明るさを調節」という部分だけを取り上げれば、すでにそのような製品は登場していたのですが、今回ご紹介する照明は光と人間の心理の上に発見された科学的な法則に基づいたものなのです。
ヒトが快適に感じる明るさとは?
日本では、1960年代に始まる高度経済成長期から今日に至るまで“明るさ至上主義”が貫かれました。その結果明るいのが良くて暗いのは困る?という価値観が無意識のうちに刷り込まれてまいりました。
しかし、単純に明るいと心地良くて、暗いのは不快というのは「本当だろうか?」と疑問を持たれる方も最近は増えてまいりました。レストランで食事をするような時には、もう少し暗くてもいいよね!と感じたり、明るすぎると疲れる!と思う人もたくさんいらっしゃいます。
よく考えてみれば、自然の光は常にその光量や色味を変化させています。私たちはそのような環境のもとに生きていますので、明るいほうがいいのか・暗いほうがいいのか?そんな単純なことでもありません。実は、明るさや暗さを示す「照度」と光の色味を表す「色温度」には関係があるということが分かっています。これは、すでに1世紀も前にクリューホフというロシアの科学者よって証明されているのです。 彼は照明の色温度と照度にはある相関関係があるのではないかと考え、被験者を使った実験を行い、下のようなグラフを導き出しました。
横軸は照度(光の強さに関する指標)です。数値が高くなるにつれ(右に行くにつれ)明るくなります。縦軸に示されているのは色温度で、数値が低いとオレンジ色で、数値が高くなるにつれ黄みを帯びた白色になり、さらに高くなると白色から青みがかった白色になります。 そして図に記載してある通り、照度と色温度の関係の中で快適な領域と、不快に感じる領域があるということをクリューホフは発見します。
たとえば、色温度も照度も高い状態は心地が良いのですが、色温度はそのままに明るさ(照度)を下げていくと「陰湿な雰囲気」に、何だかうら寂しい空間に感じるのです。また、色温度が低い、つまりオレンジがかった照明でも照度が高くなっていくと「暑苦しい雰囲気」になるというものです。
LEDが「快適な範囲」での調光を可能に
きちんとした照明の教育を受けている照明デザイナーは基本的にこの図が頭の中に刻みつけられています。そして必ず「快適な範囲」をしっかりと押えてデザインをしているのです。火や電球などの光源は、明るくなると色温度も高くなる、一方暗くなると色温度が低くなる性質がありましたので、このグラフの快適な範囲で使われることが多かったのです。
しかし、これまでのLEDでは、照度と色温度には全く関係がありませんでした。非常に小さな光源で様々なプログラムを組みこめるという利点を活かし、今回登場した製品では、「快適な範囲」内で調光ができるようになり、まずは施設向け商品としてこの秋発売されるそうです。 今まで色温度と照度を調節できるという照明器具はあったのですが、自分で色温度と照度のそれぞれを自分で調整するため、調節後の光が「快適な範囲」内かどうかを一般の方が判断するのは難しいことでした。しかし、照明そのものが「快適な範囲」の中で調光されれば、明るくても快適、そしてもちろん暗くても快適という状態が簡単に作ることができます。 たとえば、白熱電球だと調光していくと、光源がややオレンジがかるので色温度が変わるものの、反対に明るくしていってもさすがに昼白色になることはありませんでした。ところがLEDならば、昼白色も電球色もひとつの照明器具で再現できますから、明るい昼白色から暗い電球色へというスムーズな調光が可能となったというわけです。 光のソムリエとしては、ようやくそこに着目した製品が登場したか!と拍手を贈りたい気持ちです。省エネだから、電気代が安いからLEDというのではなく、LEDの特性を上手く活用してやっと人間的な部分に向かってきたと思います。
まだまだ課題は沢山あるものの、人間にとってより快適な暮らしを支えるヒューマンな照明というような発想で、生活を豊かにするLED照明が進んでいくことを大いに期待しています。