top of page
執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

松下洸平さんに学ぶ丁寧に向き合う照明


松下洸平さんと東海林弘靖
Photo by 東川哲也 朝日新聞出版 写真映像部

社会がスローに向かうとき


雑誌の対談にて


この夏に、『AERA』の連載対談企画“じゅうにんといろ”にて俳優でシンガーソングライターの松下洸平さんとお話する機会をいただきました。松下さんがアートに造詣が深いことは聞き及んでお会いしたのですが、心地よい空間づくりのためにご自宅の照明もいろいろと工夫しながら楽しんでいらっしゃることを対談の中で伺いました。


なんと、この「光のソムリエ」ブログもチェックしていただいているという嬉しいサプライズから対談はスタートしたのでした。7月の初めの夜に都内某所、「照明が美しい空間にて」これは松下さんのリクエストでしたので、特別な場所をお借りして対談がおこなわれ、お目にかかった瞬間からすごく自然に会話が進みました。


そして、その中でたくさんの素敵な言葉を頂戴いたしました。

例えば、「調光とは“心のバロメーター“です。」・・・調光はその時の心の状態とバランスをとるためのもので、いわば心の状態を知るバロメーターだとコメントされたのです。朝、カーテンを開けて朝日をたっぷりと部屋に取り入れるように、夜には調光をして、あかりを心の状態に合わせて整えるようにしているのだそうです。


松下さんと過ごした時間は、とても丁寧に人生の時間を編み込むような感覚をいただきました。

 

スピード化社会に疲弊する私達


最近、私はスロージャーナリズムという情報発信のスタイルがあることを知りました。私たちを取り巻く問題の一つにニュースのスピード化があるというのです。各メディアが速報性を競い、またスマートフォンやSNSによるさらなる加速化、その結果ニュース内容に深みが失われ、作り手にも読み手にも「ニュース疲れ」が引き起こされているというのです。


そこから脱却すべく、生まれたのがスロージャーナリズムです。スローフードと同じように、丁寧に時間をかけて取材し、さらに時間をかけてより深みのある記事を生み出し、読者もそれを読むことに時間をかけるのだそうです。忙しい時代のスピードに惑わされることなく。


自分の人生の時間を丁寧に作ってゆくのだという考えと、今回の松下さんのコメントがぴったりとリンクしていました。

 

照明から始めるスローな生き様

照明においてのスローの意味は、電気の照明をやめて焚火の生活に戻るという極端なものだけではありません。大切なのは一つ一つの明かりに向き合ってその時の自分の心の状態にふさわしい光に整えて時間を過ごすということです。


その一番入り口にあるのが調光であり、松下洸平さんはこのことに気づいていらっしゃるのです。手法としてはとてもシンプルなことですが、気が付くと毎日過ごす時間の深みが豊かで心穏やかに過ごすことができるのだと重ねておっしゃっていたのが印象的でした。

 

また対談では、松下さんは夜に調光で光を抑えると友達同士で本音で話せてしまうということをおっしゃっていました。


そこで私は、ではやってみましょう!とそばにあった小さな照明器具をテーブル上に移し、部屋のあかりを暗くしてみました。

わーっというため息、こんな簡単なことで居心地が良く感じるんですね・・・!

光の位置を移動して、あかりの量を絞ることで、心の状態と明るさの力量をととのえれば、心が解き放たれて、ついつい本音で話を交わすようになるのでしょう!


これがスローな照明の始まりであり、そこからさらに自分の心の状態を安定させるような光のしつらえを考えていくことにつながると思います。松下さんの、照明にも人にも、とても丁寧に向き合う姿は人としての魅力に溢れ、嫉妬するほどに光の魅力を伝えてくださる方だと感じました。

 

皆さんも、この冬からスローな照明いかがでしょうか。


 

bottom of page