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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

仕事の流儀を考える


テーブルの上に2本の日本酒の瓶とお猪口
photo by LIGHTDESIGN INC.

キーワードは”一生、遊べる。”


レセプションパーティーにて


照明デザイナーの仕事現場は多岐に渡りますが、それが新たにオープンする飲食店であれば、開店の予行練習を兼ねてお披露目のパーティーが行われることが慣習となり、そんな素敵な時間をご褒美として与えられることがあります。また、そこに招かれると、その店づくりの関わる様々な職種のプロフェッショナルな方々にお会いして話をする楽しい機会を得るのです。


実は先日も、照明を担当させていただいた京都の飲食店のオープニングレセプションに伺ったところ、非常に面白い、そしてとても印象的な言葉を発する若者と出会うことができました。本日はこのときの様子と共に、その若者とその言葉についてご紹介したいと思います。

 

カメラマン?グラフィックデザイナー?


パーティーには、この新しくオープンする和食レストランに関わった方たちがたくさんいらっしゃっていました。建築家、工務店、電気関係など、建築に関わる仕事をされた方々とは私も一緒に仕事をしていたので、当然顔見知りです。さらに飲食店ですから、それ以外の業種の方、例えば器の作家や調度の類を納めた古美術商の方などもいらっしゃいました。そんな沢山の方々の中で、それぞれの方と「実はワタシはこんなことを担当いたしました」と話しながらパーティーを楽しむことができます。


そんな中、20代後半くらいの若い男性がカメラを持ってカシャカシャ撮っているのが目に入りました。一見すると、グラフィックデザイナーのような雰囲気がありましたので、お店のカードや印刷物をデザインされた方かな?と思いました。しかし、実際にお話ししてみると、その予想とは全く違うお仕事をされていたことに驚かされました。

 

若者の仕事

京都の飲食店のオープニングレセプションの様子
photo by LIGHTDESIGN INC.

なんと、彼は日本酒の醸造家で、このお店の名前を冠したオリジナルの日本酒を造った方だったのです。聞くと、ご実家が京丹後市というところの造り酒屋で、数年前に父親の代から引き継いで自分が酒造りをしていること。醸造を学ぶために東京農業大学を出て、その後しばらく石川県の造り酒屋で修業をしたこと。チャンスを得て、この店をテーマにして特別な米から日本酒を造ったということ・・・短い時間ながら彼のこれまでの酒造りにかかわるストーリーを伺うことができました。


そして、そのお酒を実際に飲みながら、やはり酒造りはいろいろと難しいと。色んな種類の米を刈り取り、それを醸造するために蒸してもろみにしたものに麹を混ぜるわけですが、その時間やタイミングもありますし、それ以外にもやる手順がたくさんある中、そのひとつひとつを試しながら、こうしたらこんな風になったということを記録しながら、経験値を高めていくのだ・・・そして試行錯誤の末に少しずつ自分の思うような酒が出来ていくのだと話してくれたのです。なかなか面白い出会いだなぁ・・・。

 

仕事に対する新しいスタンス


ところで、今回のオリジナル日本酒はどうだったのか?と聞くと、結構自分が思うようなものが出来たかもしれないと言うものの、でもまだやることは沢山あるというのです。彼は続けて非常に印象的なフレーズを口にしたのです。


「この酒造りっていうのは、一生遊べる!」 つまり、まだまだ沢山やることがありすぎて大変だということよりも、次から次へと探求できるほどに奥深く、そういう意味では一生をかけていける仕事!つまり“遊べる”んだという表現だったのです。


これは、すごく良い言葉だと感銘を受けました。この言葉に隠された自分の職業に対するリスペクトと愛を感じますし、「一生探究する」といった頑張りすぎてストレスにさえつながりそうな感覚ではなく、道を探求する=“遊ぶ”というスタンスが素晴らしいと思いました。仕事を頑張りすぎちゃって、何なら疲れちゃっているという人多い中、“遊ぶ”という感覚で、毎日が楽しいということを繰り返していって道を探求していくという、そういった姿勢というのは素晴らしいなと思ったのです。


また今の時代、お金で考えて、どれくらいの収入がそれで得られるんだというようなことで職業を選んだりしがちですが、ところがそう思って入った会社が急に倒産したりと、色んな変化が多い時代でもあります。そういったお金が支配する価値観から、この“一生遊べる”という感覚で仕事に向き合えれば、新しい人生の歩み方や目的が見えてくるでしょう。この表現が私の心に響きました。


もちろん、私自身も照明デザインという仕事に対して、“一生、遊べる”と思っていますし、こういう感覚が若いジェネレーションの中でもっと伝わっていくと良いなと思うのです。照明デザインは一生遊べる素晴らしい職業なのですから・・・。


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