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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

照明界の〇〇以降


その後のシーンを変えた存在


エンターテインメント界の偉業


先日、ちょっと興味深い話を耳にしました。お笑いの世界では「ダウンタウン以降」という表現があり、一つの個性を持った存在が、お笑いの世界に新たなスタンダードを生んだ・・・という話です。


これを照明界で言うのならば・・・と考えてみたことろ、 ”ダウンライト”の登場は建築照明の世界に衝撃を与えた歴史的事実があり、それ以降のスタンダードを大きく変えた存在と言えるでしょう。


今日は、照明業界のダウンタウン以降→ “ダウンライト以降”としてどのような変化が起きたのかを探ってみたいと思います。

 

ダウンライト以前


そもそもダウンライトは、20世紀の初めに、イヴァン・キーリンという技術者が、光量が増してまぶしくなった白熱電球を何とかして空間照明に使えないかという発想で開発しました。


最初のタイプは四角い箱を天井に埋め込むタイプで、それが真新しい照明として大ヒットをもたらし、生産が間に合わなくなったというエピソードもありました。ほどなく丸型のダウンライトが開発され、また1950年代に入ると、グレアレスダウンライトやウォールウォッシャ・ダウンライトも登場し、空間を照明器具から発せられた光で演出するテクニカル・ライティングが花盛りとなってゆきました。


ではダウンライト登場以前の照明器具はどのようなものであったかというと、天井からぶら下がるペンダントや壁面に取り付けるブラケット、あるいはソファーの横に立てるスタンドライトを駆使して空間照明を形成していました。そして、各々の照明器具は、そのもの自体が輝いていて、「光る家具」だったのです。


照明は光そのものではなく、家具の一つとして空間の中で美しく存在しているいわば装飾の要素が強かったのです。しかし、機能主義建築が大いに主流になっていくにつれ、建築空間内に飾りは不要となっていきました。そして、その代わりに照明にも機能が第一に求められるようになってゆきます。


照明の機能とは、空間の使用目的に応じた光の配置であり、空間のどの場所にどのような光が与えられるのが建築の機能にマッチするのか?という論理的な発想が求められてきたのでした。

 

照明が目的を持った機能的な存在に


天井に2つのダウンライトが点いている廊下

ダウンライト以降、照明器具は空間演出の黒子に徹してゆきました。ゆえに、照明器具の形状ではなく、そこから生み出される光の効果に着目した器具開発が進められてゆくわけですが、同時にその照明器具を用いて空間に光を配置する専門家として照明デザイナーが登場するといった時代の大きな変化をもたらしたのです。


照明デザイナーは、道具としての照明器具から発せられた光が空間の目的に対して、どのように作用するのか?つまり光そのものによる効果をいかに導き出すか、腕を競っていくようになったのです。

 

今ふたたび


ダウンライトが登場してから照明器具は、「光を発する道具」として大いなる進化を遂げ、照明デザイナーという専門性の高い職能が求められるようになってきたのは、大変興味深い業界の立役者とでも言えましょう。


しかし、今ふたたび、建築の中で光がカタチを持ち始めていることは、世界を見渡して感じている方もいるのではないでしょうか。新しい転換点となるであろう今、しっかりと時代を捉えていきたいものですね。



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