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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

“省エネ”と照明デザイン

更新日:2023年5月9日


MARK ISみなとみらいの夜のファサード
photo by Toshio Kaneko

魅力的な省エネとは?


嬉しいニュース


先月6日、私はとあるシンポジウムのステージに立っておりました。それはライティングフェア2015ライティングステージでの出来事で、この日この会場で省エネ・照明デザインアワードのシンポジウムが行われたのです。じつは、2013年に私たちが参加して完成した「MARK ISみなとみらい」の照明が、商業・宿泊施設部門で大変名誉あるグランプリを受賞いたしました。


この「省エネ・照明デザインアワード」は、環境省が2010年からスタートさせた公募型の賞で、「省エネ照明化」と、「魅力的な空間作り」の両立の促進を目指して行われています。商業・宿泊施設部門のほかに公共施設・総合施設部門、まち、住宅、その他部門の賞があってそれぞれにグランプリ1点、優秀賞6から15点が選出されています。本日はこの話題と共に、省エネというテーマと照明デザインがどう関わっているかを考えてみました。

 

省エネのイメージ


現代の日本において、“省エネ”という言葉は、間違いなく照明の最も大切なテーマを表すキーワードのひとつとなっています。多くの照明メーカーは、このテーマをビジネスの中枢に据えて照明器具開発を行っていますし、ユーザーの期待も「どうしたら省エネにすることが出来るのか?」ということが優先順位の第一に据えられていることが多いと言えます。照明デザイナーが「照明は文化だ!」とか、「灯りは命の証し!」と本質的なことを語るのに大きくうなずきながらも、現実的な暮らしの中では、省エネに対する、たゆまぬ努力や共有するゴールというのが日本の照明の大きな特徴なのです。


この価値観を諸外国と比較するなら、ヨーロッパやアメリカの照明見本市に行ってみるとわかりやすいでしょう。たとえば、ドイツ・フランクフルトで開催されるLIGHT&BUILDINGでは省エネというキャッチフレーズが本当に少ないことに驚くと思います。また、場所を変えてアメリカで開催されるLIGHTFAIRに行っても然りです。


そんなことを認識しながらも、私は、“照明で人生の時間を素晴らしいものに!”というミッションを日々遂行しているのです。照明に期待されるのは省エネではなく、省エネは当たり前のことで、その先にあるゴールを目指すのだと思っているのです。

 

照明デザインと省エネを結びつけると・・・


MARK ISみなとみらいの夜のファサード
photo by Toshio Kaneko

さて、「MARK ISみなとみらい」ですが、このブログでは、「奏でるライトアップ」で施設の一部を詳しく紹介しておりますので、今回は簡単に施設の周辺環境を説明させていただきます。場所は横浜のみなとみらい地区にあり、隣は北側に横浜美術館、東側には高層住宅という立地になっています。文化施設や住宅に隣接した場所で商業施設としての賑わいをどう演出するのか?特に夜間は、光でその賑わいをつくろうとすれば、ややもすると住宅や文化施設に迷惑をかけてしまうかもしれない・・・、そんな環境にありました。このデザインのむずかしさは、そこにあって、これをどのように解いてゆくのかがデザインに課せられたのでした。


そこで、私たちデザインチーム(建築設計者と電気設備設計者と照明デザイナー)は、次のように考えました。それは・・・目立つようにやみくもに照らすのではなく、自然に建物のインテリアから光が溢れ出てくるように照明を演出する・・・、そんな表現をしよう!と考えたのです。また、この建築の特徴的な水平の帯部分にのみ光を外から直接見えないように仕込んで、極めて上品に施設の特徴を見せるという新しい発想を取り入れることといたしました。その結果、美術館や住宅エリアにふさわしい夜の静寂な闇を背景として、とても上質で、かつ内部にある店舗の楽しさを外へ伝えるという面白みが演出できたのでした。決して照らさず、控えめな灯りを配置したことで、気が付けば相当量の電気エネルギーの節約になったのです。


実際にこの場所を訪れてみると、決して明るくないのだけれども光がデザインされた開口部から溢れ出てくる表情は、中に入ってみたいという衝動にかられます。大きな施設なのですが、照明の考え方は、実に繊細なものがありました。それが功を奏しての受賞となったのでしょう。実際にアワードのグランプリ審査には実地審査もあったので、これを審査員の方にじかに体験して頂けたのも良かったのかもしれません。


省エネを目的としたデザインではなく、この施設に求められた照明デザインを解いていった結果が大いなる省エネとなった・・・、この流れは日本独自の静謐で穏やか、光のかすかな明暗の機微にふれたかの陰翳礼讃にも通じる発想かもしれません。このプロジェクトがグランプリを受賞することができ、このプロジェクトに係るすべての方の合意のもとに完成したこの施設がこれからの照明デザインのマイルストーンとなることを期待しています。


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