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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

机上に現れない光との対峙

更新日:2022年12月14日


予測できないからこそ面白い


照明イメージを検証するツール


空間に広がる光のイメージを描き、電卓をたたいて照度を計算し、あらゆる経験と失敗からの学びを総動員しながらトレーシングペーパーに設計図を描いてゆく…というのが、ほぼ20年前までの照明デザインを進める机上での工程でした。


今は、パソコン上に建築図面や照明器具の配光データを取り込んでいけば、いち早く空間における光の濃淡を視覚的に確認することが出来る3Dシミュレーションが一般的になってきています。初めに描いた光のイメージが机上で視覚的な確認ができて安心…と感じる人が多い一方、100パーセントで信じてはいけないと私自身は感じています。


それは何故かと言うと、実際の現場には机上には現れない光が潜んでいるからなのです。

 

計算と現実の誤差


照明シミュレーションソフトを使えば、照明器具の位置や数を図面上に配置していくとどの距離までどのような明るさが広がるのかをほぼ数秒で計算し、コンピューターの画面上で3D画像として確認することが出来ます。


一見すべてが出来上がったかのような感覚に陥ってしまうのですが、私の経験値と照らし合わせれば、「そんなうまくいくはずはない!」もしくは、「もっとこうなるはずだ!」と感じることが頻繁にあります。どんなにシミュレーションを繰り返しても、実際に現場に行ってみたら、随分シミュレーションと違う状況を目にして驚いたという人も多いのではないかと思います。


それにはいくつかの原因が考えられます。


ひとつにはコンピューター画面や印刷上で表現される濃淡の階調には限りがある一方で、人間の視神経のシステムは一般的なコンピューターよりも繊細に、深く細かなステップで切り替わって光を捉えるので、紙や画面では表現されていない部分が目に留まったり、シミュレーションでしっかり強弱があると見えても、視神経システムがフォローして思うほどの差異が見えなかったりするというものです。


そして、もう一つの理由は、例えばコンピューターの計算上では0ルクスとなっていても、さらに詳細に調べてみると、実は0.5ルクスの光がある場合です。シミュレーションのソフトはあくまで目安の照度をできる限り迅速に計算するために、細かなことは省略して結果を出しています。また、迅速なシミュレーションを実行するために簡易的な配光データ(照明器具から発せられる光のベクトル)をベースに計算されているので、シミュレーションはある条件のもとに計算した結果に過ぎないのです。しかし0ルクスなのか0.5ルクスなのかが大きな違いとなる場面においては致命的な問題です。


そんな理由で、現場には机上のシミュレーションでは見えない光が潜んでいるということになるのです。

 

CGとのギャップをいかに埋めるか


さて、先述の通り照明シミュレーションは、机上で空間の明暗バランスを大まかに捉えるのには役立ちますが、そういった絵を私たち照明デザイナーでさえ、信じ込んでしまうという危うさがあるように感じています。


私たちは、シミュレーションでは描かれない光、もしくは惑わしてくる数字の存在があることを忘れてはいけません。

便利な照明シミュレーションは、条件を変えて幾度も計算し、その空間の光環境の可能性を検討するために使えば大いに価値があるのでしょう!


そのあとは、見えない光の問題を解決するために何度も現場に足を運んで、確認や実験を繰り返して精度を上げていくのです。経験値を積み上げ、現場の状況をしっかりと捉えながら照明ができる過程を現実的に理解することを大切にしていきたいですね。



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