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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

誰がために光る

更新日:2022年12月14日


パシフィック・センチュリー・プレイス丸の内 外構
パシフィック・センチュリー・プレイス丸の内 photo by Toshio Kaneko

For Whom the Lights Shine


インタラクティブな光の時代


技術の進化で米粒ほどの小さなLED素子ひとつひとつに命令を送り、こちらの要望どおりに色や点滅のパターンを即座に、そして繊細に変化させることが簡単に実現できる時代になりました。そんな時代の中でも、どこに行っても似たような光で溢れてしまっているのはどうしてなのかという疑問を投げかけられたことをきっかけに、今日は「誰がために光る」というテーマで光の在りかたを地域や人との関係から考察してみたいと思います。


人の動きに反応して、光がメロディーを奏でるといった、光のインタラクティブ性は、私の携るプロジェクトでも20年以上前から取り入れてきましたし(上記写真)、アートの世界ではもっと早い段階から導入されてきました。しかし、世界的に見るとインタラクティブな光を街に取り入れることで、その地域性をより高めることができるのではないかという研究が進められているものの、実はまだまだ途上にあるという話を聞きました。

 

その光は何の為?


最新の公共空間の場づくり(プレイスメイキング)に関する海外論文に、「Not Just Pretty Lights」と言うタイトルがあるのを目にしました。日本語にすれば、“ただ綺麗なだけの光ではない”というニュアンスなのでしょう。


それによれば、プレイスメイキングはトップダウンではなく、実際の利用者の為になるものはボトムアップで作られるべきだと説明しています。確かに、それぞれの地域の個性を反映させるためにも有効な、ひとつの方法ともいえるでしょう。


しかし、利用者の見識を高め、真に求めるものを言葉にする力をつけなければ、公共空間として後世に残すに相応しい環境をつくることは難しいという意見も聞こえてきます。

そのバランスを上手にとっていたのではないかと思える方法として、パリの昔話を思い出します。

 

電気照明創成期の話


都市の夜景や夜の経済を活性化する仕掛けとしてのライトアップというのは20世紀の初め頃から試され始めたようですが、パリの夜の街が安全で楽しい時間であることを示すために建物のライトアップも、当時は高額な電気代がかかってしまうのでライトアップの点灯時間が限られていたそうです。


しかし、パリ市はユニークなアイディアを思いつきます。それは、市民の希望があれば有料で特別にある場所のライトアップを点灯させるという仕組みを提案したそうです。すると、そのアイディアには市民が大喜びで様々な特別有料ライトアップ点灯が始まったというのです。


たとえば・・・恋人の誕生日にレストランで食事をしていると、ほどなく今まで消えていたイルミネーションがパッと点いて、誕生日おめでとう!とパートナーが告げる・・・そんな灯りのプレゼントを考えるセンスの高さを物語るエピソードです。市民のひとりひとりが街の光を自分の為に使うことが出来るという意味では、これこそ利用者の為の光と言っても良いかもしれません。さらに、ロマンティックな恋の街、パリといった地域性も感じさせてくれるアイディアです。

 

光を使ってどう楽しませるか?


東京デザインセンター・大階段前広場で行った光の大縄跳び
光の大縄跳び(東京デザインセンター・大階段前広場にて)photo by Toshio Kaneko

私が20年ほど前に遊びでやった光の試みで、呼びかけた訳でもないのにどんどんと街の人が参加してきた面白い出来事も思い出しました。


東京・五反田にある東京デザインセンターの大階段前広場で光ファイバーを使った光の大縄跳びを始めると、通りや横断歩道の向こう側を歩いていた人々が何やら面白そうなことをしているな・・・とが気が付いて、次々と飛び込み参加してきたのです!


小学生がランドセルを床において「飛ばせてもらってもいい?」なんて言いながら参加したり、さらには初老のご婦人まで、「私は縄跳びが得意だったのよ!」と言って入って来たのです。するともう止まりません・・・つぎから次に人々が集まっていきました。


現在、いろんな都市でITやLEDを使った夜の街づくりが進められているようですが、市民がみんなで共有できる光の面白さを見出せるようになるには、ただ素晴らしい光を与えられるだけでなく、こういった遊び心が伝播することが大事なのだと思うのです。


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