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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

奥行は演出されている


GREEN SPRINGS(東京・立川)
GREEN SPRINGS(東京・立川)Photo by Akito Goto

光のシナリオに惹きこまれるワケ


あの先に行ってみたい…


街を歩いていてふと、引き込まれるような路地空間、その先に進んでみたいなと感じさせる魅力を放つ空間に出会ったことはありますか? 引き込まれる理由はいくつかあるのでしょう? たとえば、その先に目を引くような建物や美しい植物が見えているとか、軸線上に美しい空がみえているとか・・・、それらは偶然にできた魅力なのかもしれません。しかし、そこには建築やランドスケープデザインの巧みなシナリオがつくる空間であったりするのでしょう! そして、そこに光が加わることによって、より一層引き込まれるような空間を演出することが出来たりするのです・・・。

 

パースが強調されている空間


建築用語でいうパースperspectiveとは15世紀にイタリアで生み出された遠近法や透視図法のことを示します。ふつうは、同じ高さの樹木であれば、遠くのものが小さく見えて、近くのものは大きく見えています。しかし、時に建築家やランドスケープデザイナーは、この遠近法を逆手にとって(上手く活用して)私たちを感覚的に惹きつけるように設計するのです。


たとえば、この写真は東京のイチョウ並木として有名な明治神宮外苑にある絵画館へのアプローチですが、ここにはちょっとした秘密が隠されています。実は手前の並木道が始まるところの木が一番背が高く、建物に近づくにつれて徐々に低くなっているのです。これは建物までの距離を実際よりもはるか遠く崇高な存在へのアプローチに感じさせるために工夫された造園の技法です。


誰もがそんなことには気づかずにこの並木をゆっくりと歩いているのですが、案外疲れずに絵画館に到着してしまったと感じるかもしれません。

 

距離感に光を加味する


さて、このような手法を照明によって演出している空間をご紹介しましょう。東京・立川にあるGREEN SPRINGSは事務所、ホテル、ホール、店舗、美術館、保育所などが広場を囲うように配置された複合施設です。ここにはホールの横を緩やかに上り下りするカスケードをともなった階段が作られています。

GREEN SPRINGS(東京・立川)の外階段
GREEN SPRINGS(東京・立川)Photo by LIGHTDESIGN INC.

夜間には階段の路面を照らす連続的な足元照明が設置されているのですが、よ―く見ると、手前が青色の光となっているけれど、奥に行くにつれ徐々に薄っすらと白味を帯びた色に変化するように作られています。


歩く人にとって、この長く続く道のりを単調にならないように、そして、空へと続く光の変化を工夫したグラデーションです。そしてその先に何か別な楽しそうな空間があるような期待感を演出したいと考えました。

 

照明のテクニックと塩梅


建築の照明というのは空間における光の配置によって、人々がどう感じるかを変える試行錯誤のデザインであります。


機能的に必要な明るさを得るための照明設計理論はもちろん大切なのですが、それを超えてわくわくしたりWAO!とおどろいたり、あそこまで行ってみたいと思わせるように完成させることをめざさなければならないと考えているのです。照明デザイン上の戦略をシナリオにするわけですが、あまり意図的にやり過ぎると嫌味になってしまうからなかなか難しいのかもしれません。


塩梅というのでしょうか? やり過ぎないことが魅力を作るポイントなのかもしれません。





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