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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

照明のパーソナライゼーション

更新日:2020年2月18日


ライフスタイルの多様化と照明


パーソナライゼーションという表現


IT系の方なら慣れ親しんだ言葉なのかもしれませんが、最近このパーソナライゼーションという言葉をよく耳にするようになりました。以前、vol.33でも触れたように人々のライフスタイルの変化とともにニーズも変わり、更にそれが多様化しています。そこで、ITのチカラを使ってそれぞれのニーズにあったサービスや空間を提供しようというのがパーソナライゼーションサービスと呼ばれるものです。


日本の照明デザインのフィールドに、パーソナライゼーションという言葉が躍ることは今のところまだないのですが、この機会に照明デザインにおけるパーソナライゼーションについて考えてみたいと思います。

 

パーソナライゼーションを感じた照明手法


この言葉を照明デザインに当てはめようとして、まず最初に思いつくのはタスクアンビエントという照明方式です。


これはオフィス空間などに取り入れられてきた照明方法のひとつで、従来天井に取り付けた全般拡散型の照明器具によって空間全体を均質に明るくしようとするものに対して、これは、タスク(=仕事)のための照明と、アンビエント(=風景)を作る照明を分けて考えようというものです。


アンビエントライトは主に壁や天井を照らしたりするような間接照明、これで部屋全体の明るさを作ります。一方で、タスクライトは個別に自分のデスク上の仕事のための明かりはスタンド等でとってまいります。


この方法をとれば、オフィスワーカーそれぞれの作業内容や必要な照度の違いに対応することが可能になるのです。個々のニーズや要求の違いに対応する・・・つまりは・・・、パーソナライゼーションということになるのです。


この概念そのものは私が照明業界に入った1984年頃には既に周知のものでした。アメリカから始まったタスクアンビエント手法は、人種のるつぼと称される合衆国アメリカの考え方そのものだったのです。


かつて、日本でも本格的なタスクアンビエント照明を手掛けたことがあります。それは20数年ほど前、アメリカの投資銀行の日本支店を移転するプロジェクトでした。


その企業は照明デザイナーを起用して、特別にあつらえた照明器具を天井から吊って、天井から跳ね返るアンビエント照明と、飛行機の手元灯のように必要なデスク上にきちんと光が当てられるタスク照明をオフィスにセットしたのです。これが、私の初めてのタスクアンビエント、つまりはパーソナライゼーション照明となったのです。

 

これからのパーソナライゼーション照明


最近IT系の話題を見ていると、タスクアンビエント照明も何やら時代遅れになりつつあるように思える節があるのです。


アップルやグーグルの最新オフィス空間というのは「キャンパスオフィス」と呼ばれ、各部屋にズラッと机が整列しているのではなく、非常に広い大学のキャンパスのようなオープンな空間にリビングルームのような所があったり、ゲームコーナーがあったり、机もアトランダムに置かれていて好きなところに陣取ることができるのです。


そして、そこでラップトップPCやタブレットをさりげなく開いて、カジュアルな服装で仕事をするのです。そんな光景を見ていると、タスクライトというよりも、自分の好きな光のもとに移動して仕事するというスタイルが、現代的なパーソナライゼーション感覚になっているように思えてきます。


考えてみれば、「こんなスペックにしておきましたから、いい仕事を期待しますよ!」みたいな発想は、そもそも会社側の仕掛けに過ぎないわけで、本当のパーソナライゼーションとは言えなかったのかもしれません。


設備としてパーソナライゼーションを取り入れるとか、タスクアンビエント照明の提案をしていくというよりも、今日のキャンパスオフィスの照明は、もっとフレキシブルに色んなタイプの多様な光を空間の中に作っておいて、好きなところに行っていいよ! という物なのです。


それはオフィスというよりもサロン的な空間、この感覚が日本でも浸透しそうな気配がしています。


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