光はバーチャルでも心に沁みる
Youtube番組に出演しました
ライトデザインでリモートワークに切り替えた丁度その頃、今までにはなかったタイプのユニークな仕事の依頼が飛び込んできました。それは、ニンテンドースイッチで大人気となっている「あつまれどうぶつの森」というゲームの中に広がる光について解説をして欲しいというのです。
なんか面白そうだな…、しかし私はゲームを全くやらないので勝手に…①まずゲーム機を購入して、②練習して遊べるようになって、③ゲームの中の照明を研究して…これは結構大変な仕事かもしれないなぁ…、初めはお受けするか決めあぐねていましたが、事務所のスタッフからも「このゲームはなかなか癒されるいいゲームなのでやってみたらどうですか!」と強く勧められたのと、実際にゲームをするのではなくて、「ゲームの上手な人が操作をするので大丈夫です!」とのことで引き受けることといたしました。
リモートワークという新しい仕事のスタイルが見えてきたころでしたので、何やら沸き起こる新鮮な風を感じたという正直な感想もありました…。初めて足を踏み入れたゲームの世界はなかなか興味深い光の世界が広がっていました。
オンラインでゲームの世界を散歩
さて、その番組内容というのはライブドアニュースが発信しているYoutubeチャンネルの企画で、「〇〇のプロと行く ゲームさんぽ by livedoor NEWS」というものです。タイトル通り、いろんな専門家がゲーム内の世界をそれぞれの視点でと考察するという内容で、収録はもちろんオンラインで行われました。少し勝手がわからずにいた私と違って、先方はインタビューする方とゲームをプレイして画面を動かす方が分業体制にあって、私が「あっ、さっき通った所に戻って見せてください」なんて言うと、すぐに対応していただけるのです。後日、番組として編集された動画を見ると、私が解説している内容に合わせて、適切な図表が差し込まれていたりと、なかなか力の入った丁寧な仕上がりとなっていました。
出演した本人としては、なんだか面倒くさそうなオヤジが話しているように見えてしまいこれで本当に大丈夫なのか?…と心配になってしまいました。しかし、実際に公開されるや否やあっという間に視聴者数が増えていったのには驚かされました。
リアルとリアリティ
ゲームの世界をのぞいてみると、想像以上に光が美しかったという感想を持ちました。たとえば、光が水に反射してできるグリッタリングという現象などは、そのきらめき方が絶妙で繊細にできていることに驚かされます。またゲーム内の建築空間に設置してある照明器具も秀逸なものもありました。建築化照明だって思った以上にこだわっていたりします。
これまでバーチャルはリアルを超えられない!と勝手に思い込んでいたことを撤回しなければならないくらいです。光はバーチャルの中にあっても人を惹きつけることに気づかされたのです。
バーチャルは言うなれば虚構の世界であるのに何故だろう? そんなことを考えていたらそれを説明する面白い話を耳にしました。ダビデ像は肉体美を表現するのに本来あり得ない方向に足が曲がっているというのです。つまり完全なリアルでなく、人間が少し手を加えたほうがリアルに見えちゃう!ってことなのです。
今日はこのブログの場をお借りして、あえて言ってみることにします。それは、自然光がリアルであるとすれば、人工照明って人が創作の手を加えたフィクションの光という解釈すら成り立つのではないか…。
ところで以前このブログでも紹介した新宿三井ビルの車寄せ空間では、壁に薄いスカイブルーの間接照明を帯状に長く設置したのですが、それがあたかも水平線が広がっているかのような光景を作りました。その場に立ち尽くして結構長い間見ていても十分に耐えうる美しさを持っているのです。
人はバーチャルな光でも心地良く感じることが出来るのです。またこれまでに私がこの地球の大自然に取材した様々な美しい光の現象…月明かりに照らされたサハラ砂漠、北欧のオーロラ、パプアニューギニアのサンゴ礁の海に沈む夕日…、こういったものは自分の想像を超えた非日常的情景で、あまりの美しさにある意味では現実感の無い情景でした。
心を奪われるような光の景色というのは今やバーチャルな環境の中でもリアリティを持って存在している。であれば、リアルかどうかというよりも、それによって人間の心が癒されたり、動かされたりということが重要になってくるでしょう。そうなるとこれからの照明デザイナーは、バーチャルな空間にも活動の範囲を広げるのかもしれません。
第一線で活躍されるファッションデザイナーが、ゲームの世界に洋服のデザインを提案しているように。
〇〇のプロと行く ゲームさんぽ by livedoor NEWS -あつ森×照明デザイナー