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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

ガテン系ライトの魅力/船舶用照明器具


目新しさを超えた機能美


興味をそそられる“ガテン”なもの


「ガテン」というのは、かつて出版されていた求人誌のタイトルなのですが、その求人誌は建築・土木、ドライバーや修理工など、いわゆるブルーカラーに特化した情報を扱うものでした。現在は休刊になっているようですが、創刊が1991年と言いますから日本はバブルが終わりかけた頃、この求人誌とそのコマーシャルが大ヒットして、「ガテン系」なる言葉も生み出されてきたのです。


ガテン系・・・そうです、何事にも体を張って忍耐強く働くタフな奴、・・・そんなイメージがバブル崩壊から次なるIT時代の中で頼もしく見えたものでした。さて、照明器具の世界においても、どんな過酷環境の中でも安全で確実に光を放つガテン系な照明器具というものを見出すことができます。今日は私が長年愛しているタフで魅力にあふれた照明器具についてお話してみます。

 

海の厳しさに耐える照明


私が使わせていただいている“ガテン”な照明器具の代表は、船舶用照明器具です。上記の写真のような船用の照明器具は、見た目にも建築用照明にはない不思議な魅力を持っています。一言でその魅力を表現すれば「たくましさ」かもしれません。何せ荒波をかぶる船のデッキ上でも壊れることなく点灯し続けることが仕事なのですから・・・。一般の照明器具の仕様書に「・・・海の側など塩害の被害を受けるような場所ではご使用をお控えください」なんていう心細くなる注意書きが添付される照明器具が多い中、なんと力強いプレゼンスを示していることでしょう!


私が船舶用照明器具の魅力に気づき、照明デザインに取り入れてみたのは二十数年くらい前のことです。その一例である1992年に竣工した「ホテル・ポリーニャ」は、伊東豊雄さん設計の大自然の中にゆったりと輝くガラスブロックが印象的な建築なのですが、その前の駐車場で小さな光を発しているのが上記写真と同様の船用ライトなのです。どうしてこれを使ったのかというと、伊東さんのデザインした、磨き抜かれ抽象化された形態の建築には、デザイナーの誰かが手を加えた美しい照明器具が、不釣合いだと考えたからでした。むしろ、そこにはデザインの意図が全く感じられない無造作でぶっきらぼうな船用ライトが対比をなしていいのではないか・・・、そう考えたのでした。


船舶用照明器具は、デッキ上で物がぶつかってガラスが割れないよう頑丈なガードで覆われており、全くお洒落さなどを追求することなく、ひたすら真面目なのです。そしてさらにすごいのは、何十年もの間、一貫して同じ製品を作り続けています。北海道清里町の大自然、そして伊東豊雄さんの輝く近未来的な建築との対比でとても面白い表情に仕上がったのです。

夜のホテル・ポリーニャ。室内の明かりがガラスブロック窓から光り、外の道路に埋め込まれたオレンジ色の船舶ライトが輝いている。
ホテル・ポリーニャ

 

空を、雲を、切り裂く照明

もう一つ、ガテンな船舶用照明で、事あるごとに建築にも使われるのが、キセノンサーチライトです。これは911で失われたニューヨークのワールドトレードセンタービルのメモリアルライトアップに使われていたのが記憶に新しいと思います。デザインは私の心の師匠であるポール・マランツさんが担当されました。


このライトは本来、探照灯として巡視船が海の上で何かを探すときに使われたり、漁船が魚群や流網を見つけるために開発されたものです。一般の放電灯に比べて光が発光する部位が極めて小さいので、パラボラ曲面を持つ反射鏡と組み合わせるとどこまでも直進する光をつくることができるのです。この矢のようなビームの力強さもまたガテン系、すなわち見ていて心強い、たゆまぬ照明装置だと考えるのです。写真を改めてみると、人や建築のスケールをはるか超えて天まで届きそうな神々しい感じが伝わってまいります。


しかし、先ほどの船舶用デッキライトもそうですが、ひたすら与えられた環境に適合する照明器具として長い経験を積んだ上に、完成したカタチの持つ厚みが何とも私の心を打つのでしょう。そして、その厚みが求められるプロジェクトに出会った時に予想以上の意外なマリアージュ(互いを引き立てあう現象)が生まれるように思うのです。一般の照明器具メーカーのカタログがLED新製品オンパレードである時代に、久しぶりにガテン系照明器具のカタログを開けば、また新たなクリエーションへのワクワク感が大いに沸いてくるのです。


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