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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

有機的な照明

更新日:2020年6月24日


光に味わいを与えるもの


無機と有機について


最近、自分の車を定期点検の為にディーラーに預けることがありました。行きはいつもの自分の車を運転してディーラーに行く訳ですが、帰りは預けてしまっているので貸し出された代車で家に戻ることになります。その車というのは、先ほど預けた私の車と全く同じ車種でした。ブレーキの利き具合やシートの座り心地もほぼ同じでした。そして、その同じ車のようで、他人の所有物に乗るという不思議なことになったなぁと、走り慣れたいつもの道を運転するも何かが違う・・・、なぜか落ち着かない・・・、そしてようやく気づいたのがダッシュボードの仕上げ材の違いだったのです。 

 

木は落ち着く? 


自分の車のダッシュボードには幅4センチくらいの木目のパネルが水平に配されているのですが、代車のダッシュボードには木目の代わりに少し濃いアルミ色のメタリックな装飾が施されていて、どうやらこれが何か落ち着かない原因だったのです。自分の車の木目というのは木目調にプリントされた金属であって、本当の木を使っているのではありません。そうであっても、均一でない表情にこころ和むといったところなのでしょうか。


かなりの高級車になると本物の木材を使った装飾もありますが、大衆的な車ではこういった装飾部分は木目調プリントがほとんどだといいます。それでも、世界中で多くの車に展開されているところを見ると人間の本能と関係があるのでしょう。  そういえば、昔月面着陸を果たしたアポロ宇宙船では船内があまりに無機的なので、やはり木目調プリントシートを使っているなんて話を聞いたことがありました。本当の木材は、有機物ですが、プリントされたもの、その本体は樹脂または金属なのですから、いわば無機物なのですが・・・、何となく均一でない有機的な表情に人間は親和性を感じる生き物のようです。有機的なるものと無機的なるものの違い、このことは照明デザインにとっても大変面白い定義が出来そうです。 

 

照明デザインの有機的なるもの


そこで、照明デザインでの有機的・無機的とは何だろう?と考えてみました。


照明デザインにおける、無機的というのは無変化、つまり変化しない、停止した状態や完成された状態、もしくは緊張感を極限まで高めたクールな表現ではないかと思います。すると、有機的というのは逆に未完成な状態、それゆえにそれが成長していく状態や様子、もしくは変化している状態、時間的に変化しているように思える状態など、なんらかのカタチでこちらを受け止めてくれそうな包容力を感じるあたたかな佇まいとでもいえるでしょうか。


これが無機的なるものと有機的なるものの違いかなと捉えると、もう少し照明に展開する方法が見えてくるような気がしました。 

 

無機から“有機的”は作れる

インゴ・マウラーのMY NEW FLAME(マイニューフレーム)というLEDライト
photo by LIGHTDESIGN INC.

例えば、5年前にNY購入したインゴ・マウラーのMY NEW FLAME(マイニューフレーム)というLEDライトは良い例です。これはLEDですが、ろうそくの炎のように揺らめくという照明で、無機的なLED素材を使いながら有機的な光を作った非常に面白いアプリケーションです。  こういう感覚が大事なのかなという気がします。変化、一定でない、ムラ・・・、これらを改めて「見立て」ているわけです。照明は、明るくするものというだけでなく、私たち人間と親和性をもって向き合える存在となっていくという考え方が照明の新しい時代を引っ張ってくのではないでしょうか。 


ところで、現在、最新の照明素材にOLEDというのがあります。これはOrganic(オーガニック)LED、日本では有機ELと呼ばれるシート状の光源で、照明としては面で光を均一に出すようにと開発が進められています。しかし、せっかく有機素材を使っているのですから、光自体も有機的に感じられるような展開に期待していきたいと思っています。 そうすれば、新しい照明デザインのコンセプトを牽引していく光源へと育っていくかもしれませんから、大注目です。


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