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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

プレゼンテーション


仕込みが肝


プレゼンテーションは大舞台


こんにちは、東海林弘靖です。2015年も早いことでもう一月が過ぎようとしています。これから寒さが厳しくなる季節、温かくして元気にまいりましょう! さて、今回のテーマは、プレゼンテーションです。長いこと仕事をしていると、大成功したプレゼンテーションがあれば、逆にあれれ・・・どうしてこんな展開になってしまったのか?と冷や汗をかいてしまうこともありました。


私たちデザイナーにとってプレゼンテーションは、デザインの方向性を決定するとても重要な大舞台のようなものです。では、そのプレゼンテーションで成功するためには何が必要なのでしょうか? それはプロジェクトの背景を十分に理解し、プレゼンテーションを受けるサイドの心を読むことが大事です・・・というのが、これまで私が就いた上司にあたるデザイナーの方々が異口同音に唱えた言葉です。そして、そんな環境で育った私は、それに加えて重要なポイントを次のように考えているのです。それは、「仕込みこそプレゼンテーションの肝」というセンテンスなのです。

 

プレゼンテーションまでの流れ


照明デザインのプレゼンテーションは、仕事の依頼を受けてから、 ①その建築のデザインを理解しコンセプトを立て、 ②複数の照明手法を考案から一つに絞り込み、 ③照度計算で裏をとり、 ④これでいけるぞ! ・・・という確信が持てた時に、事業主へのプレゼンテーションが行われます。プロジェクトの規模にもよりますが、そのタイミングとしては数週間から数か月後にそれが行われることになるのです。


その間、私たちは設計条件を読みこなし、事例を調査し、スケッチ・エスキースを描き、模型に光を入れ、まずは自分たちの頭の中に仮想の照明空間を完成させねばなりません。そして、その未だ出来ていない空間を縦横無尽に行き交いながら、見落としやデザインの矛盾はないか?とチェックを繰り返すのです。そして、いよいよプレゼンテーションの日時が決まれば、その日に向けて説明用のレジュメやパワーポイントを準備することになります。時によっては、スタディ用に照明を仕込んだ模型をご覧いただくこともあります。 そして、そのプレゼンテーションは、仕事を依頼していただいた方のオフィスにデザイナーが出向いて行うことが一般的です。依頼者に敬意を払ってということもありますが、そのほうがより沢山の関係者の方々に聞いていただけるからなのです。しかし、このスタイル、スポーツで例えるならアウェーでの試合とでも言いましょうか。 しかも、それは初めて見るスタジアム、いやプレゼンテーションのために用意していただいた会議室は、どうにも勝手がわかりません。そんな状況でのプレゼンテーションとなるのです。

 

あの時の苦い経験


もう20年くらい前の話ですが、先方の会議室でスライドプロジェクター(当時はコダック社の円形のカルーセルに35ミリリバーサルフィルムをマウントしたスライドを入れて投映していました)を使って写真や資料を投映したのです。ところが、その会議室はさんさんと入る午前10時の太陽の光に満たされ、設備されたブラインドでは十分な暗さをつくることができなかった・・・、そして、投影されたスライドが良く見えない・・・、「この美しい光のグラデーション・・・心に染みわたります・・・」何ていう解説がなんとむなしいことでしょう。


たとえそのブラインドが遮光タイプだったとしても、午前10時の快晴の日差し、ブラインドの外の照度は8万ルクスです。光はブラインドの隙間から何の問題もなく入ってきて、照明デザインの機微など到底伝えることはできないのは言うまでもありません。


プレゼンテーションをお聞きいただいていた何十人ものオーディエンスは、フムフム何か分かりにくいなぁ・・・という雰囲気がムンムンと伝わってまいりました。そのプロジェクトは、次なるプレゼンテーションの機会を得て、無事に進めることができたと記憶しています。しかし、その時の何とも嫌な冷や汗をかいた記憶が、プレゼンテーションに対する私の考え方を大きく変えることになったのだと思います。


それから20年以上経過し、私も事務所を構えるようになりました。そして、事務所を作る際には、そこできちんとしたプレゼンテーションができるような空間を作りたいと考えました。いわば、ホームスタジアムの整備です。そして、願わくば、プレゼンテーションは、このホームで・・・と思い続けているのです。しかし、そんな時ばかりではありません。アウェーでの試合にも対策を講じなければなりません。

 

アウェーでの戦い方


ところで、その話を進める前に、一冊の本を紹介させていただきましょう。ノンフィクション作家、ジェフリー・ロビンソン著『ザ・ホテル』(文春文庫)です。・・・この作品は、著者が自らロンドンにある世界的な超高級ホテルに5か月間滞在して取材したノンフィクション物語です。この中に「女王陛下の公式晩餐会」という章があり、英国女王一家がこのホテルで国賓級のアラブ人をゲストに晩餐会を成功させるまでの準備と当日の様子を描いたものなのですが、その中で総料理長の当日の様子を示す下りに共感したのです。 そこを抜粋してみましょう。


「・・・彼は自信ありげに宴会準備室をものすごい迫力で動き回っていた。じつをいうと真の戦いはメニューをうまくつくりあげ、頭のなかにタイミングをしっかり組み立てることであり、それはもう数日前におわっていた。頭のなかでは、いまのはたんなる再現にすぎなかった。」(春日倫子訳)


本番は、シナリオの再現にすぎず、すべての可能性はすでに考えを尽くし、手を尽くしているとさえ考えることができる自信、それを支える仕込みこそが、本番を成功に導く最大の秘訣なのでしょう。


私は、プレゼンテーションが新たな光のデザインを切り開く入口だと考えます。初めてお会いするクライアントの皆様に、光のデザインの価値をきちんとお伝えし、その実現のビジョンを共有することができるか否か・・・その重要な時間、そして照明デザイナーとしての使命感を強く感じるひと時となるのです。しっかりとした仕込みとシナリオがあれば、その大舞台にある大きな扉を開けることができると信じているのです。



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