照明をワイン文化に習う
“電球ソムリエ”育成のために
このブログの名前に「ソムリエ」と付けた理由は、私がワインというお酒の奥深さに魅せられているからなのですが、照明の世界もまたワイン同様に奥深いものです。この2つには何やら共通する世界観があるように感じています。
最近はこの共通性のある異文化からも照明の世界観をもう少し深めたいと思い、2年ほど前からワインの学校に通い続けています。すると、ワインスクールで学んだワインの評価方法を、照明の世界にも応用ができないか?と考えるようになりました。たとえば、「照明による空間の明るさ感や色の見え方、雰囲気」という、これまであいまいにしか表せなかった感想を、体系的に表現するワインのテイスティングコメントのように書いてみよう!というアイディアを持ったのでした。 そんな考えから、昨年よりスタートさせたのが、電球ソムリエワークショップ「アカデミー・デュ・ランプール」です。まず初級編としてスタートした講座は全4回で、光の基礎知識から始まり、たくさんの種類の電球の構造や発光原理、そして後にはワインのように電球の光をテイスティングすることで、その違いや個性を感じていただくというプログラムです。
この講座は、幸いにも友人の計らいでスポンサーとなる企業の協力も得て開くことができたのですが、最終回には「初級電球ソムリエ認定試験」も行い、合格した方には電球ソムリエに認定するとともにバッジを差し上げる・・・という、ワインのソムリエさながらの楽しい企画になったのでした。 今回は、この講座の中でも特に好評だった「光のブラインドテイスティング」をご紹介いたしましょう。
ワインの世界では・・・
私がワインを飲みだしたのは、今から20年ちょっと前のことになるのですが、その頃はワインのことが何もわからず、ただ当時流行っていたフランスの新酒の一つである「ボージョレ・ヌーボー」などをひたすら飲んでいたような始まりでした。
時はバブル全盛でおしゃれな人々は皆、解禁日である11月の第3木曜を待ち焦がれてその日に盛大なパーティを開催して大変盛り上がっていたのでした。これが私のワイン事始めだったのです。(ミーハーな動機であったのは恥ずかしいですが)そんな訳で、以来ウィスキーや日本酒には目もくれずひたすらワインを飲んでみたら、次第にワインそのものだけではなく、その背景にあるブドウ栽培や醸造技術、そしてまたワイン造りにかけた生産者の思いなどを体系的に学びたいと考えるようになったのです。 ワイン講座では座学による勉強のほかに、実践的にテイスティング力を身につける訓練も行います。小さなテイスティンググラスが6客並べられ、そこに名前を伏せた6本のボトルから、ワインが注がれます。そして、人間の持つ視覚・嗅覚・味覚をフルに使ってそれぞれのワインの評価を行うのです。これは「ブラインドテイスティング」と呼ばれるもので、独特のドキドキ感のある非常に面白いトレーニングです。 具体的なテイスティング方法は・・・たとえば、色をよーく観察すると、白ワインでも黄緑がかっていたり、あるいは琥珀色に近かったりなど、しっかりチェックします。ブドウの種類にもよるのですが、一般に若いワインほど緑色のニュアンスがあり、年を経ると琥珀色に変化します。
今度はグラスを回して液体をグラス内に広げると液体が張り付いて落ちる度合いが違うことに気づきます。これはアルコール度数や糖度が高い場合に、粘性が出てくると言われているのです。温かい地方で出来たワインのアルコールは高くなる傾向があります。
他に、香りを嗅いでその印象からブドウの種類を類推します。ブドウの種類と醸造方法によって発生するアロマが決まっているのです。最後に、ワインを味わってみて酸味や苦みのバランスを記録し、総合的な要素から何のワインかを推論するのです。
照明にもブラインドテイスティングを!
私はこのブラインドテイスティングというゲーム感覚のトレーニングは、まさに電球の比較にも応用できると考え、早速、光のブラインドテイスティングボックスを作ってみました。
それは底辺が45センチ角、高さが60センチの真っ白い箱で、上部に電球を仕込んであります。もちろん、正面の覗き口からは電球そのものは見えず、箱の中には光が満たされた状態となっています。これを使ってワインのブラインドテイスティングのように、さまざまな要素から推論していくのです。
この箱が5つ完成し、中にすべて異なる電球を仕込んで一斉にスイッチを入れた瞬間、かつて初めてワインのテイスティングを体験した時の気持ちがよみがえってまいりました。一見して同じような光の、そのわずかな違いから種類を特定するゲームが始まるのです。なんというワクワク、ドキドキの瞬間であったことでしょうか! 電球ソムリエ講座では、ワイン講座のようにテイスティングコメントを書き込むチェックシートを用意しました。光の捉え方として注目したいポイントとなるのは、 1. 色の印象、 2. 陰影の出かた、 3. 演色性 の3つです。
色については色温度の数値を読み解きます。そして陰影の出方は、光源の大きさを探る大きなポイントです。光源が大きければ影はぼやけたものになりますが、小さな点光源ほどシャープな影が出るのです。そして、演色性の良し悪しは実際に野菜やお肉などを置いてみて、美味しそうに見えるかどうかといった具合です。たとえば、一般的なLED電球は、青色の波長が強く赤の波長が少ないので、赤みのお肉などを美味しそうに見せることができないのです。そんなチェックを繰り返していきます。
受講生は照明に興味のある一般の方から、建築関係、そして照明メーカーの方までいらっしゃいましたが、どの方もじっくりと光に向き合っていくうちに光源の違いを見極められるようになっていました。最終のテイスティング試験では、全問正解された優秀なインテリア・デザイナーの方がいらっしゃいました。 昨今、照明というとどうしても「何ワットだから省エネになる」といった切り口でしか語られない傾向にありますが、どんな照明がどのように料理を美味しそうに見せてくれ、どのように美しく演出してくれるかという観点こそが、エネルギーを使うからには、必要なことなのです。
まさにワインをテイスティングするかのような大きな世界観がもっと広がってくれたら・・・そんな思いで今後もこの講座を続けたいと思っております。
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