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  • 執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

言葉で光を伝える技術─照明俳句


2014年の東海林による書初め「新春の清き光に筆をとり」
photo by Hiroyasu Shoji

照明の力は五七五に乗せて


新年の誓い!その心は・・・?


こんにちは。東海林弘靖です。前回このブログでは、新年のご挨拶と共に今年1年間のテーマをご報告させていただきました。それは「事あるごとに照明俳句を詠んでみたい!」というものでした。そして、手始めに詠んでみたのが上記の句であったのです。


俳句はご存じのように、五七五の短い言葉を並べて、そこに作者の思いやその時の情景を込める日本語ならではの素晴らしい表現法の一つです。今回は、なぜ今年私が俳句、いや照明俳句を始めようと考えたのか? そのあたりからお話を始めたいと思います。

 

年末の恒例イベントにて


そのきっかけとなったのは、昨年11月に開催された円卓会議・照明楽会(内原智史・東海林弘靖・武石正宣・東宮洋美・富田泰行)が主催するトークイベント「照明力」での一幕でした。


今回は「〔今こそ聞きたい! とっておきの光の話〕 世界の照明デザインを切り開く」というテーマで、石井幹子さんをスペシャルゲストとしてお招きし、照明デザインの過去・現在・未来について様々なお話を伺ったのです。その中で石井さんに向けられた質問のひとつが「趣味はなんですか?」というものでした。お答えとしては仕事が趣味みたいなもので、特に趣味はないということだったのですが、「でも強いて言うと、こんなことが好きなのよ。」とご紹介されたのが、素敵なものでした。


それは、広辞苑をペラペラとめくることなのだそうです。「広辞苑をめくりながら、光に関わる言葉を探すのが好きなの。」と、そんなお話をされたことから、会場では光を言葉で伝えるというテーマに発展し、そこでなんとなく私の頭にふと思いついたのが“俳句”だったのです。そこで、石井さんに「照明俳句なんてどうですか?」と振ったところ、「あら、良いじゃない?やってみなさいよ!」というお言葉をいただいたのです。いわば照明デザイナーの大先輩からお墨付きをいただいたわけです。となれば早速始めてみよう・・・!とその時心に誓ったのでした。

 

難しい?なかなか面白い!俳句の世界


こうして年が明けた2014年から始めることになった俳句ですが、詠むにはいくつかのコツがあります。まずは季語が必要であるということです。季語に換えて光に係る単語を必ずいれるという選択肢がなかったわけではありませんが、季語のない照明川柳となると、あまりにも自由すぎて良く耳にするサラリーマン川柳のような泣き笑いも含めた日常の風景を詠んでしまいそうです。私は、あくまで照明の素晴らしさやそのチカラを伝えたいので、日本の季節に重ねて光を詠みたいと考えたのです。実際に季語を調べてみると光にも関係する良い言葉もたくさん発見できました。


季語の例)

春 夏 秋 冬 新春 陽春 風光る

春光  春燈 春暖 薄暮(5月) 入梅 梅雨 

酷暑 残暑 晩夏 

新涼 白露 初秋 中秋 名月 秋冷 寒露 

初霜 落葉 冬の月

師走 歳末 年末 初雪

太文字は光と関連する季語)


こうして、季節感を出しながら詠んでみましょう!では早速一句。

冬の車窓(まど) 白き光が 皆包む

解説:最近、とても寒い東京、でも冬ばれの朝の風景。白き光は、通勤電車の窓が白く結露した様子ですがで、朝日を受けてまばゆくなっています。その白い透過拡散光が通勤の人々を包んでいる光景を読んでみました。 (いや・・・我ながらいいじゃないですか・・・笑)

また、照度や色温度といった照明の世界では数値化されて表現される要素も数字ではそれがどのように素晴らしいかが伝わりにくいものの、俳句に乗せるとわかりやすいのではと思います。そこでさらに一句。

陽春の 長き波長に まどろんで

解説:「長き波長」これは可視光線の赤い波長よりもさらに長い波長=赤外線をたくさん含む光、つまりぽっかぽかの暖かい光のことです。この光の下では人は日向ぼっこしているような心地よい状態に。人に気持ちよさを与えてくれる、そんな光なのです。まどろみたくなる光、これも光がもつチカラのひとつかもしれませんね。 ではもうひとつ、光を表現する季語を取り入れた句を詠んでみましょう!


気が付けば 銀座の空に 暮簿かな

ライトデザインの窓から見た銀座のブルーモーメントの空。はす向かいのホテルの数室の窓に明かりが灯っている
photo by LIGHTDESIGN INC.

解説:私のスタジオの定位置からは窓をとおして銀座の空が見えています。ふと仕事の手を休めて窓の外を見てみると、気持ちの良いブルーモーメントを見ることができました。「薄暮」は5月の季語です。東京の短い薄暮の時間を楽しむ心のゆとりが欲しいものです。


あまり気負わずに詠んでみると、案外カンタンです。ぜひ皆さんも気軽に照明俳句にトライしていただきたいと思います。照明に関わられている方なら情景を細かに読み取り言葉で伝える良いトレーニングにもなるでしょう! また照明に興味をお持ちの皆様もご自分の視点で光や影の様子を俳句に読んでみたら毎日が少し楽しくなると思いますよ! 私が折節によんだ照明俳句もこちらのブログで紹介していこうと思いますので、楽しんでいただけたら幸いです。


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