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執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

時代はメリーゴーランド

更新日:2022年12月14日


影のない時代へ


フラットデザインとは?


昨年、2020年はいくつかの自動車メーカーがロゴデザインを大幅に変えたという記事(「完成という概念はない」日産、VW、BMWのリブランディングが象徴する進化)を見かけました。ここで紹介されている新しいロゴのスタイルは、“フラットデザイン”と呼ばれるもので、ロゴにテクスチャーやエフェクトをかけない非常にシンプルなデザインです。薄っぺらで影を持たない、一見、退屈そうに感じるこの表現はどうしてできていったのか?そして、そこにどんな意味が含まれているのか?これは興味深いと思い、まずはそのフラットデザインへ移行してきた経緯について調べてみました。

 

ロゴが見られる背景の変化

車のロゴが配置される場所を思い描いてみたら、フラットデザインなるものの姿が見えてきます。自動車のエンブレムは自動車のボディの上にあるものでしたから、昼間に太陽の光で陰影が出来る立体的なモノが素敵に見えると考えられてきました。また高額な車になればなるほど、その価値の象徴としてのエンブレムは、然るべき重厚感が求められ、場合によってはギリシア彫刻のように彫が深く立体的なものもあります。


しかし、私たちが今生きているデジタルな社会では、その重厚なエンブレムも、ロゴも、タブレットPCやスマートフォンの上で見ることを意識しないわけにはいかなくなっているようです。もっと言えばスマートフォンの画面は小さいので、視る人に認識されやすいシンプルでわかりやすいデザインがより良いというのです。また、これらのロゴの背景には動画が流れることも多くなり、ロゴが動画にオーバーレイするような使い方が増えています。そのような理由もあってロゴには背景を邪魔しないシンプルなデザインが求められているというのです。

 

シンプル イズ ベスト


話は少し飛躍してしまいますが、約100年前に今日と同じような感染症によるパンデミックがありました。それは、スペイン風邪や結核菌による人類への脅威でした。都市や建築はそれらの脅威を乗り越えるために様々な工夫が凝らされました。太陽がたくさん当たり、風通しが良く清潔な都市、窓が大きく日光が良く入る住宅が求められ、そして家具やプロダクトも掃除がしやすくシンプルな形状のものが好まれた機能主義建築の時代が到来しました。


100年前に感染症に見舞われたことで、それまでの装飾の多い様式美から離れシンプルなデザインへと導かれたと言ってみましょう。そして、その100年後である今日もまた影の表現をなくしたフラットデザインへと、シンプル イズ ベストを繰り返すようにロゴ表現の変化が社会のムーブメントになっているのはただの偶然とは思えません。


もしかしたらシンプルであることは、「人間の煩悩が加えた華燭・虚飾をそぎ落とせ!」というメッセージなのだろうか?などとも考えられます。人間の傲慢さがついついぜい肉をつけてしまう・・・それをシェイプアップするといったことをくりかえしているのかもしれませんね。


ところで、占星術の世界では2020年12月に星の配列が大きく変わるグレートコンジャンクションのときを迎え、これまで220年続いた「土の時代」から「風の時代」へと変わったのだそうです。昨年までの「土の時代」では、土地や財産などの所有が幸を生むとされていたそうですが、これから始まる「風の時代」になると、モノやお金ではなく毎日の快適性や人との付き合い、時間の過ごし方など形のないものに価値を見出すようになるというのです。


今から220年前は、ちょうどコレラのパンデミックが発生した時代であり、葛飾北斎が『富嶽三十六景』の制作を始めたころです。 この話も何か前述の時代の回転に同調するようですね。


回転を続けるメリーゴーランドに乗っている私たちは、その回転で沸き起こる風を全身で感じながら、今を生きてゆきたいと思う2021年のはじまりなのです。


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