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執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

自動車ヘッドライトの変遷


自動車の明かりが夜景を変える

車のライトが面白い

こんにちは、東海林弘靖です。今回は自動車のヘッドライトの話をテーマにブログを綴ってみたいと思います。


最近、車のヘッドライトがLED化され大変面白い進化を遂げています。私たち照明デザイナーは、主として建築物を対象とした光のデザインを行っていますので、車の照明ましてヘッドライトのデザインにまで踏み込むことはまずありませんでした。しかし、都市の夜景という観点では、この車の照明が極めて大きな役割を果たしているのです。


まずは、そんな夜景を作り出しているヘッドライトとテールランプのお話しからご紹介いたしましょう。

 

パリの夜景

私が初めてパリを訪れたのは1980年代の終わり頃です。照明デザイナーにとって初めてのパリ到着のあと、まず向かったのは、有名な観光名所のひとつである凱旋門の屋上でした。


凱旋門はシャンゼリゼ通りをまたがるように建っているのですが、実際にはその他に何本もの通りがここへ向かっていて、凱旋門は大きなロータリーの真ん中に立っています。カメラを抱えて日没前に屋上に到着し、パリの美しいブルーモーメントを待ってシャッターを切り始めました。徐々に空が深い群青色に変わる頃には、シャンゼリゼ通りはまるで煌めく宝石に埋め尽くされたような輝きを放っていました。


それは、凱旋門に向かう車のヘッドライトの群れと、その逆に遠ざかる車のテールランプの赤色光・・・煌めく都市のシャンデリアを見るかのような光景でした。しかし、この頃は現在の景色とは色味が少し異なっておりました。当時のフランスでは車のヘッドライトは黄色いライトを使用するように定められていたので、結果、凱旋門から見えた光景は、赤色と黄色い光の群れで構成されていたのです。


 

変わりゆくヘッドライト

私の目に刻まれたこの印象的なパリの夜景は程なくして変わりました。フランスがEUに加盟したことに由来し、かつての黄色いヘッドライトを規定していた法律が改正されたのでしょう。黄色い光の群れは、さわやかな3000Kのハロゲンランプの色味に代わってまいりました。


そして、それから20年の年月が過ぎた現在では、その色味はさらに変化しています。ハロゲンランプを光源としたヘッドライトは、グッと少なくなり、代わりに出現してきたのは、さらに色温度の高いキセノンヘッドライトです。そして最近は白色LED光源のヘッドライトを搭載する車も出てきています。そんな光源の進化に伴って、シャンゼリゼ通りの夜景の色味がどんどん変化していることは興味深いことです。


ここで、ヘッドライトの進化の歴史を見ることが出来る美しい動画をご紹介したいと思います。ドイツの自動車メーカーのアウディが制作している動画です。



 

車の未来


ところで、カッコいいヘッドライトと言えば、70年代に見たTVコマーシャルが思い起こされます。それは、メンズブランド「ダ―バン」のコマーシャルです。


トレンチコートに身を包んだアランドロンがシトロエンSMという宇宙船のような車を駈って、颯爽と山道を登っていくのですが、車がカーブを曲がると同時に画面が車のヘッドライトをクローズアップします。するとステアリングと連動したヘッドライトが進行方向に動いて行く先を照らすのです。 少し横道にそれてしまいましたが、LED化された車のライトは、夜間の車の存在感をも変貌させています。それは、ヘッドライトの縁のラインに沿って線状にLEDを並べて見せるシグネチュアライトと呼ばれる新しい発想です。車のブランドごとに工夫が凝らされたこの光のアイデンティティは、まさにLEDによる進化の表現にほかなりません。また同様にテールランプにもライン状の個性が与えられています。左右対称に灯されているだけであった赤い光に形が与えられ、><のような絵文字を連想するような表情が与えられています。 そんな多彩な車のヘッドライトですが、実は自動運転の進化と普及により、ヘッドライトやテールランプが不要になる日がくるかもしれないというのです。車の進化や変化が都市の夜景をつくるというシナリオは普遍ですから、とすれば、あのパリの凱旋門でみた美しい車の光で構成された夜景は、どのように変わってゆくのか? 少しの心配と大きな期待を持って見守ってゆきたいと思うのです。

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