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執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

建築模型で考える照明デザイン

更新日:2023年4月20日


照明が仕込まれた建築模型
photo by Toshio Kaneko

空間と戯れるプロセス


仕事の中での愉しみ


仕事を続けていく上で大切なことは、少し前のブログ「vol.109 仕事の流儀を考える」でも書きましたが、仕事の中に楽しみを見出していくことだと思っています。どんな仕事も、初めてそのプロジェクトの概要を聞く時が一番ワクワクする瞬間です。新たなプロジェクトに招かれて、今度はどんな仕事だろうと思いを馳せるのは純粋に嬉しいものです。


しかし、これはまだ仕事が始まっていない段階のことで、その後に長いデザインのプロセスが待っているのですが、それがまた楽しいのでこの仕事を続けているのかもしれません。その中でもとりわけ心が弾むのが、模型を使ったシミュレーションをしている時!今回はこの模型を使ったデザインの醍醐味の話をしてみましょう。

 

模型のシミュレーション


私は、事務所を設立して以来、ずーっと行っている設計プロセスが、模型によるデザインスタディです。多くの照明デザイナーは、CGによるシミュレーションに移行していったようですが、私は今でも建築模型をつくって、それに光を仕込んでデザインスタディをする方法にこだわっています。もちろん、若いスタッフの中にはCGのシミュレーションの専門家を自負するものもいるのですが、いやそう語っていた彼こそがある時、模型を使うことに開眼してしまった・・・、私の事務所はそんなことでいつも沢山の照明入りの建築模型がたくさんある状況なのです。


と、ここまで書いてみて「どうしてそんなに模型を使う方法がいいのか?」という質問がたくさん飛んでくることを感じました。その答えは、CGシミュレーションは、結局モニターの画面やプリントアウトした2次元で見ることしかできないバーチャルな検証となりますが、模型はアナログながらリアルだからです。模型は縮小された空間なのですが、そこに与えられる光は本物です。本物の影もできますし、素材への映り込みも確認することができるというメリットがあるのです。


模型に一通り光をセットしたのなら、私たちはその模型をのぞき込むことになるのですが、即座にいつも使っているCCDカメラを入れてプロジェクターでスクリーンに大きく映しながら確認してみることになります。スクリーンに映された瞬間、「うわー・・・こうなるんだ!予想通り!」とか、「あれれ、こんなになってしまうのか?でもこれもいいぞ!」などなど・・・、中々楽しくてハイテンションになる瞬間です。CCDカメラをゆっくりと移動させれば、そこはすでに完成された空間を歩いているように見えてまいります。この楽しい時間こそが模型を使った照明デザインプロセスの醍醐味の一つとなっているのです。そして、2次元ではわからなかった“気づき”がここで生まれるのです。

 

とにかく試してみる

博多グリーンホテル1号館の模型
博多グリーンホテル1号館の模型 photo by LIGHTDESIGN INC.

例えば、「vol.102 デザインのシンプル化」でご紹介した博多グリーンホテル1号館の照明も模型シミュレーションから生まれた照明デザインのアイディアが反映されています。ここのレセプションは縦長の空間で、天井の細長いスリット状の照明のみでデスクの手元も全体の明かりもすべてとられているのですが、これは天井を取り除いた模型に何気なく与えた光が、偶然にも長い帯状の光にしてみた時に、「これだ!」と気付いたことに事の発端があったのです。


空間と光の関係は実際にいろいろと試してみて初めて分かることも多く、例えていうならば、洋服を選ぶときに試着をするような感覚かもしれません。この服が似合うだろうと着てみたら、ちょっとイマイチだったと・・・、一方こんなスリムなのはあまり着ないけど試してみたら、意外な良さに気づくといった感じです。そんな気づきの場でもあるのが、この模型シミュレーションの面白いところとも言えるでしょう。 いずれにせよ、模型は決まった案を確認するだけではなく、まだ確定しない段階にどのようなことになるか、空間と戯れながらデザインを語るというところが非常に楽しい作業です。そこには建築設計者やクライアントなど、相手に納得させる効用もあるのですが、なにより照明デザイナー自身の心を高揚させ、照明デザインの深遠なる世界観をより深めてゆく・・・、いやいや自らがその深みにハマっていっているのかもしれませんね。


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